2020年05月29日
2020(令和2)年5月29日
生徒のみなさんへ
盈進中学高等学校
校 長 延 和聰
Slow is Beautiful
長い休校。そのなかでの「自粛生活」(巣ごもり生活)でした。本当にみんな、よく耐えました。
6月1日(月)からいよいよ、「通常」の生活に戻る本格的な準備に入ります。このウイルスは「3密」を好みますから、これまでどおり、自分と他者の命と健康を守るために、「3密」を避ける、検温する、体調不良の時は登校しない、マスク着用、手洗い励行、不要不急の外出はしない等々、感染防止に努めてください。
新しい生活スタイルのスタートです。トイレや食堂の利用についても今後、担任の先生から「密」を防ぐ取り組みが説明されます。慣れずに「面倒くさい」ことがあるでしょう。「第2波、第3波」の覚悟も必要です。ただ、それを食い止めるのも、私たちひとりひとりの社会の一員としての責任ある自覚と行動にかかっています。
スポーツの全国大会や芸術文化の大会や行事がことごとく目の前から消えていきました。青春をかけて心技体を鍛え、先輩たちから引き継いできた夢や目標を果たすことができなくなった君たち。特に6年生の落胆や無念の心中を察すれば、かけることばもないほど胸が痛みます。私も「甲子園」をめざしていた高校球児だったので、それが予測されていたとはいえ、「中止」の文字を見たとき、やはり、涙がにじみ出ました。いますぐに、代わりの目標を立て、それに向かって歩み出すことは、なかなか難しいという人もいるでしょう。それでいいです。でも、新たな目標をさがすこともまた、長い目で見れば、必ず貴重な経験になると思います。
私たちがいま、経験していることが必ずどこかで生きてくる、と私は思います。だから、焦らず、徐々に生活リズムと学習意欲を取り戻し、仲間と共に目標に向かって確実に歩んでいきましょう。
最近、こんな新聞記事に目がとまりました。アジア屈指のビーチリゾートとして知られるタイのプーケット。通常、世界中から年間1000万人の観光客が訪れるそうです。でも、コロナの影響で町がロックダウン(都市封鎖)。砂浜に、ある現象が起きました。現生するカメの仲間としては最大級のオサガメの巣穴が、この20年のうちで最も多く確認できたのです。観光客がいなくなった結果、砂浜がカメたちに暮らしやすい環境になったということです。絶滅が危ぶまれるだけに、保護団体の人々はよろこんでいるそうです。(『日本経済新聞』2020年5月9日)
コロナ禍は瞬く間に地球を襲い、いまもまだ、尊い命を奪い続けています。それは、ウイルスが人に宿り、人が地球規模(グローバル)で「速く」移動し、人から人に感染を広げたからです。私はこの現象を、始業式と入学式で、「国境を越えたグローバルな現代自体が引き起こした矛盾」と表現しました。
高速鉄道や高速旅客機(飛行機)は速さ(fast)が「売り」です。私たちは、スピードと効率を高額なお金で買っているのです。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんがジェット機の利用を拒否し、ヨットを使って移動したことは世界のニュースになりました。「速い」ジェット機が、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を多く排出するからです。
コロナ禍は、「速い」ことが、私たち人間にとって本当の幸せなのかという問いを突きつけました。
『Slow is Beautiful』(辻信一著)という本があります。直訳すると「遅いことが美しい」。20年ほど前に出版され、私はすぐに購入して読みました。
ハンバーガーなど、すぐ食べられる手軽な食品や食事のことを「fast food 」と言います。そんなことばと生活が流行ったときに出版された本です。あまりにも急いで生きている現代人。「急ぎすぎて大切なものを見失っていないか。もっとみんな、slowで行こうぜ」というライフスタイルの提案でした。この本はすでに価値としての速さが地球規模で人類の生存を脅かすと警鐘を鳴らしていました。
週明けの6月1日から、久しぶりに仲間といっしょに一日たっぷり生活します。自分が発することばや自分の態度が仲間を傷つけていないか。いやな思いをしている仲間をひとりぼっちにさせていないか。少し立ち止まり、時間をslowにして仲間を気遣い、まわりを見渡せる人でありたいと思います。
通常の登下校も久しぶりです。絶対に交通事故に遭わないでください。急がず、slowで!交通安全!
盈進のかけがえのないみなさんが元気に毎日学校に来ることがなによりうれしいことなのですから。