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2021年度 1学期始業式 校長あいさつ

2021年04月03日

2021年度 1学期 始業式

校長あいさつ

 

2021年度が幕を開けた。新しい担任や副担任の先生、新しい仲間と共に、毎日が楽しく、思いやりのあるあたたかい学級や学年を、そして、充実した毎日を、誰かがつくるのではなく、誰かに言われてやるのではなく、自分たちの手で、自分の意志で、つくり、築いてほしいと願う。

 

中略・・・自分と他者のいのちと健康を守り、自ら立てた高い目標に向かって、やりたいことをとことんやりきる、そんな1年にしてほしい。

常に、盈進共育「仲間と共に、自ら考え、自ら行動する」ができているかを問うて、悩みながらも日々努力し、前進しほしい。諦めてはいけない。決して妥協してはならない。

成せばなる。意志あるところに道は開ける。「 Where there is a will, there is a way.」である。6年生へ。まず、夏を過ぎるまでは目標を下げてはならぬ。妥協してはならぬ。

 

中略・・・明日は入学式。407名の新しい中高生の仲間が入学してくる。そのレベルは毎年、上がっている。ならば、高いレベルに見合った高いレベルの日常、すなわち、常に自分の意志で、高いレベルの文武両道の毎日を過ごしてほしい。

諸君のほとんどが大学進学を含む高い進路目標を持っている。であれば、英語は毎日、教員から言われたから、ではなく、自分の意志で、自分で決めた時間に、自分で決めた勉強をすること。英語ほど、勉強すればするほど、結果となって現れる教科はない。つまり、努力が必ず実になる教科が英語である。毎日、英単語と英熟語を覚える。毎日のListening Timeを常に向上心を持って、集中して取り組む。英語のレベアップは必ず、受験の機会、未来の可能性を広げる。

 

今日は、「問え、悩め~自分が変わる~」をテーマに話をする。

「自ら変わる」のテーマは、昨年2学期、諸君に伝えた。今日は、その前提として、「問え、悩め」を加えた。

どうして「問え、悩め」か。それは、日々、いやその時々に、「それは本当か」「それはどうしてか」を問い、「なぜそうなるのか」「どうすればできるのか」を考え悩むことによって、よりよい解決方法や結果に近づくことができると、確信するからである。

例えば「自分が変わる」ということ。いまのままの自分でよいのかを問い、どうすればより充実した毎日を送られるようになるかについて悩み、その悩みを経て、よりよい行動をとり、よりよい結果を得る。いま伝えた英語の勉強にだって言えることであり、自分の目標にしたがって、自分の現状を問い、どうすればいいか悩み、悩むが故に自分を変えるだろう。

例えばカーボンニュートラルの問題。CO2、メタン、フロンガスなどの「温室効果ガス」の輩出を現在のままに放置すれば地球温暖化が進むばかりである。ではどうすれば、温暖化を止めることができるかを問う。企業の利益を下げずにそれを実現するのはどうすればいいかを問う。世界市民が納得のいくやり方はないだろうかと悩む。その悩みを経てよりよいアイディアが生まれ、共感する仲間を得て、よりよい地球環境をつくる道が開ける。

例えば高齢化社会。認知症の人が地域社会で「共に生きる」ためには何が大切かを問う。では、どのような国や地域のシステムが必要か。また、どのような医療が必要で、どのような薬の開発がのぞまれるかについて悩む。その悩みを経てよりよい研究がなされ、共感する仲間を得て、よりよい地域社会の創造がなされる。

授業でも、クラブでも、仲間との関係性においても、常に「問い、悩む」ことを習慣化してほしい。ある有名な大学ではこの「問い、悩む」ことを「批判的距離」と呼び、その繰り返しの中で、「批判的距離」を縮めながら問題解決に近づける。そして、その繰り返しが学問の神髄だと説く。言い換えればおよそ学問学習において最も大切な要素は「批判」、すなわち「問うこと」「悩むこと」の繰り返しであって、その批判的思考(クリティカルシンキング)が、ものごとを的確な判断で見極めることだと、私は考える。

今年度からSHRは伝達の時間ではない。盈進の全学級で「問い、悩む」時間とする。それを「探究」と言ってもいい。諸君、これから毎日、社会事象、自然現象、世界の動向などはもちろん、ちょっとした家族や仲間や教員が発した言葉とか、ニュースで感じた疑問とか、道ばたで見かける生き物に関する?とか、何でもいい、大いに問い、悩んでほしい。その「批判」(問うこと、悩むこと)の繰り返しが諸君の論理的思考力と的確な判断力を鍛え、それをベースに、豊かな表現力が発揮されることだろう。その力は必ず、高い目標の進路を獲得する力となり、また、激変の時代を生き抜く力となる、と私は確信している。

「問い、悩む」その深さが、論理的思考力や判断力や表現力の質(クオリティー)を高めることになる。では、その「深さ」はどうすれば身につくか。

私は、読書や新聞を読む習慣が、「より深く問い、よりよく悩む」ことになると確信する。

何度も言うが、本や新聞は、「どう生きるか」という哲学を身につけるためのヒントを授けてくれるものなのだ。諸君、本を読もう。新聞を読もう。

 

昨年度3学期に読んだ本の中から2冊紹介する。

1冊目は『福島モノローグ』。「モノローグ」とは、演劇における長い台詞。あるいは心の中をさらけ出す「独白」のことを言う。

今年は東日本大震災から10年。マルチタレントのいとうせいこうさんが、ただただ聞いた被災者の話をそのまま本にした。布団で読んで、枕が涙で濡れ、震災後に4度行った福島を思い、眠れなくなった。目をつぶって、コロナの状況にも思いめぐらせた。

地震、津波、原発事故という大混乱のさなかで、次々に襲いかかる現実の困難に、この本に登場する被災者は、牛を、植物を、子どもを、そばにいる人々を気遣い、愛する。

身内を亡くした悲しみ、避難の不安、仲間と離ればなれになる寂しさに打ちひしがれながらも、そこにあふれるとめどない創造性や偶然の出会い、とっさの知恵には、悲しみも喜びも混然一体となって不思議な明るさや楽しさをつくり出した。だがそれは、ありきたりの言葉ではない。

ある女性は避難所で段ボールを組み立て、即席スタジオを設置した。爆発した原発に近い福島県富岡町からの避難者のための小さなラジオ局だ。沈痛な空気に覆われた避難所が笑い声に包まれた。そして、このラジオの声が命を救った。あるリスナーの話に泣けた。

原発事故でふるさと富岡を奪われ、「人と会うのが嫌だったし、今日こそ死んでやろうと真剣に思っていた」人がいた。ふとラジオをつけたら、「ん?なんだこのラジオ、いま富岡って言ったぞ」と思ってまた聴いた。ラジオはまた「富岡って言った!」。その人は「なんだこのラジオ!よし!明日も聴こう」って思ったという。「明日も聴こう」と思ったその人は、命を絶つことなく、明日も生きた。

被災した人々は、先の見えないなかで、手探りでできることを考えて立ち上がった。そこに起きた相互扶助は激しいほど豊かで、偶然をはらみ、思わぬところに届いた。言葉一つひとつが、明日への希望にむかって、まばゆい光となって私に反射してくるようだった。

人の話をじっと聴くことが、こんなにも人を勇気づけるものだったとは……人の話をそのままに収録したこのようなカタチの本に、私はこの年になってはじめて出合った。

100人いれば100通りの「3・11」があるという事実にたじろぐ。その感情を安易に共有はできない。でも耳を傾けることはできる。そうすれば、他人事(ひとごと)ではいられなくなる。それは福島だけの話ではなく、私たちの日常にもあてはまることではないのか。聴くことで生まれる新たなつながりに希望がつながれた。

 

2冊目。3学期の終業式に予告していた本。『NASAより宇宙に近い町工場~僕らのロケットが飛んだ』。先生方も是非、読んでほしい。帯にはこんな言葉が添えてある。「どうせ無理……廃絶宣言」。私が大好きなこの本の一節。「夢とは、大好きなこと、やってみたいこと。仕事とは、社会や人のために役立つこと」。

この本の書き出しを、少し長いが引用する。

僕はそこで二十人の会社を経営しています。リサイクルに使うパワーショベルにつけるマグネットを製造するのが仕事です。もうひとつ、僕らは宇宙開発という仕事もしています。

ロケットがつくれるようになりました。人工衛星もつくれるようになりました。…

周りの人たちからは、この宇宙開発ビジネスに関して、「将来的にはいくらぐらいの売り上げを見込んでいるのですか?」と、よく質問されます。でも僕はそのことについてはあまり考えていません。なぜなら、僕にとって宇宙はお金を稼ぐ対象ではないからです。

宇宙開発には、もっと大切な意味があるように思えるからです。僕は、宇宙開発はあることを実現するための手段だと考えています。それは「どうせ無理」という言葉をこの世からなくすことです。「どうせ無理」というたったひとことで、多くの人が夢をあきらめてしまいます。本当に怖い言葉です。宇宙には月や銀河や星や、美しいものが無数にあります。そんな美しい宇宙ですが、簡単に行くことができないので、あきらめてしまいがちです。多くの人があきらめてしまう夢を、「そんなことないよ!」と言って実現できれば、あきらめない人が一人でも増えるのではないかと思っているのです。

そして著者の植松努さんは、こんな言葉で本を締めくくる。

どんな夢も、『どうせ無理だ』ではなくて、『だったら、こうしてみたら』と言ったら必ずかないます。ただ、そのためには仲間が必要です。みんなで自分の夢や悲しみや苦しみを語り、そしてみんなで『だったら、こうしてみたら』と知恵を出し合えば、どんな問題も解決し、夢は必ずかないます。みんなで世の中を変えましょう」と。

夢をあきらめずにいられるのは、仲間がいるからだ、と作者の植松さんも言っている。まさに、言い得て妙である。

植松さんは、決して諦めず、妥協せず、「どうすればできるか」と問い続け、失敗し、悩みながら、でも、仲間といっしょにまた、「だったらこうしよう」と問い続け、行動しつづける。まさに盈進共育「仲間と共に、自ら考え、自ら行動する」と同じ志である。

ミャンマー軍事政権が暴走し、多くの市民が殺されている。許せないと思う。決して対岸の火事ではない。「あなたに起きることは私にも起きる」のである。では、どうすればこの暴挙をやめさせることができるか。仲間と共に、問い、悩み、それを繰り返し、また考え、行動してほしいと願う。

 

諸君。明日、新たに加わる仲間も交えて、常に仲間を思い、さらに固い友情を育み、新しい盈進の歴史と伝統を築いてくれることを大いに期待する。激変するこの時代に、希望の光を灯すために、新時代を切り拓くパイオニアとして、果敢に挑戦するチャレンジャーとして、そして、常に努力を惜しまない誇り高い盈進生として、建学の精神「実学の体得」~社会に貢献する人材になる~ために、常に問い、悩みながら、自分を変えよう。

2021年4月3日

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