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2021年度 1学期 「終業のことば(校長)」

2021年07月21日

2021年度 1学期「終業のことば」(リモート)

 

諸君、新型コロナウイルスによる苦悩は現在も続き、予断を許さない状況だ。私たちに代わって最前線で治療や療養にあたる、お年寄りや障がいのある人の介護をする方も含めた医療従事者の方々はもとより、感染の可能性の高い仕事に従事されているいわゆる「エッセンシャルワーカー」の方に、敬意と感謝の心を忘れてはならない。

また現在、感染によって治療されている方々に心からお見舞いを申し上げると共に、亡くなられた方々と悲しみに暮れるご家族に対してお悔やみを申し上げる。

諸君、座ったままでいい。その場で医療従事者やエッセンシャルワーカーの方々に対して感謝の心を捧げると共に、亡くなられた方々にしばらく、黙祷を捧げつつ、わたしたちひとりひとりが社会の一員としての責任において、感染防止のルールを守り、自分と身近な人の健康といのちを大切にする日常を送ることを再度、自覚する時間としよう。

黙とう。直れ。

 

(中略)

人格があってこそ、仲間を大切にして、仲間と共に、自分で考え行動し、平和構築や人権尊重、環境の問題の解決に貢献する人材となる、と私は信じている。盈進に集う者は生徒諸君も教職員もみな、日々、謙虚に、仲間と切磋琢磨して、自らが立てた高い目標を必ず、自らの手でつかむよう努力を惜しまず生活し、学習を重ねることが求められている。きょう、いま一度、この認識と自覚を深めるように願う。

中学女子バドミントン部が県大会で団体準優勝を果たし、8月4日から鳥取県で開かれる中国大会に出場する。30年前に盈進中学校が再開されて以来の快挙である。

また、女子剣道部から、6年の堀美桜(みお)さん、5年の松岡涼菜(すずな)さんの2名が国体選考広島県代表5名のうちの2名に選ばれた。

そして、6年生の唐川弘大くんが中国大会にて、200m個人メドレーで2位となり、8月中旬に長野県で行われえるインターハイ(全国大会)に出場する。よくやった。おめでとう。「盈進」という歴史と伝統を重んじ、先人や仲間に感謝し、今後の活躍にますます期待している。生徒諸君、その場で拍手をしよう。

 

これから、「仲間と共に、問え、悩め」というテーマで話をする。1年生、4年生4月4日の入学式で聞いたことと重なることが多い思う。

盈進の建学の精神は「実学の体得」。すなわち、「社会に貢献する人材となる」である。そのために、自分はどんなひとになるか、どう生きるか、どんな職業に就いて、どのように社会に貢献するかを、常に自分に問うて、悩む。将来のことを仲間と大いに語る。語ってはまた悩む。その、問うて悩むプロセスと時間が自分を鍛えてくれるし、夢大きく、目標を高くしてくれると私は確信している。進路目標は、校内に掲示してある『輝く先輩』を大いに参考にして、高い目標を建て、日々努力してほしい。

一昨日の「ホンモノ講座」。順天堂大学国際教養学部教授ニヨンサバ・フランソワ先生が「Never give up !your dream!」とおっしゃっていた。自分のため、家族のため、地域や国のため、苦しんだり悲しんだりしている人々のため、平和のため、人々の健康やいのちのために、家族がジェノサイド(大虐殺)で多数、殺されたという壮絶な経験もしながらも、自分にできることを精一杯、日々努力する尊さを教えていただいた。その学びを決して忘れずに、

また、フランソワ先生との出会いと、フランソワ先生と盈進をつないでくれた橋本瀬奈先輩に感謝して日々を過ごそう。学んだことを糧に、「仲間と共に、自分で考え行動する」、それがいま、わたしたちみんなに求められている。

そのためにも、そして、こんな時こそ本を読む。盈進図書館「みどりのECL」で本を借りる。本は必ず、私たちに「どう生きるか」という哲学を身につけるヒントを授けてくれる。夏休みに読む本をまだ借りていない生徒はきょう必ず、「みどりのECL」で借りて帰る。そして読む。

諸君、本や新聞は、「答え」をもらうために読むのではない。本や新聞は、私たちが日々、毎日を充実して生きるために「問い、悩むヒント」を授けてくれるのだ。

だから、考えること、探究することが楽しくなる。だから盈進図書館「みどりのECL」で本を借りて、また新聞を読んで、自分で問い、考え、悩み、また考えるのだ。

中学生は、盈進にしかない「読書科」でどんどん本を好きになってほしい。本や新聞を読む人は必ず、高い進路目標を自ら獲得する人である。

どうにもならぬ困難に直面した時、その読書体験が行く道を照らし、生きる勇気を与えてくれる。

 

7月9日の中国新聞コラム「天風禄」と、7月17日の朝日新聞コラム「天声人語」は同じ題材だった。瀬戸内の、わたしたちが暮らす広島県に「ひまわり」という名の移動式図書館の船があった。

「農村に本を運ぶバスのように、島にも船で届けよう」と、図書館のない島々をめぐった図書館船が「ひまわり」だ。この度、坂本龍馬の師匠の勝海舟が日本人としてはじめて太平洋を横断し、アメリカ合衆国に渡った「咸臨丸」と同じく、日本の「ふね遺産」に登録された。1981年に活動をやめるまでの約20年間に、地球2周半分を航行。現在、尾道市の瀬戸田町にペンキも塗り替えられて保存されている。図書館船「ひまわり」を大海原に見つけた島の人々、とりわけ子どもたちは、どんなにワクワクして本を待っただろうか。と、想像して一昨日朝、私が暮らす尾道の向島からしばらく、美しい瀬戸内海を眺めた。

わたしは、「ひまわり」号は、本、読書を通じて、子どもたちの未来を「航海」し続けたのだと思う。

諸君も、自らすばらしい未来を切り拓くために、本を手に取って、読書を通じて、未来への「航海」に出かけてほしい。そして、どうすれば、ひとがよりよく生きられるか、どうすれば、よりよい社会をつくることに貢献できるか・・・問い、悩んでほしい。

 

きょうは2冊紹介する。

1冊目。『生物に学ぶイノベーション~進化38億年の超技術~』。作者の赤池学さんは筑波大学の生物学類を卒業した科学技術ジャーナリスト。視点がとてもユニークで、いっきに読み終えた。私が中高時代、こんな一冊に出合っていれば、私の人生は変わっていたかもしれないなあ、と思った。

「イノベーション」とは、新たな考え方や技術を取り入れて新たな価値を生み出すこと。一般的には「新しい技術」のことをいう。要するに、この本は、動植物の不思議な38億年の進化に学び、人がよりよく生き、よりよい社会をつくるイノベーションの視点や実践を紹介している。

オワンクラゲの発光メカニズムを研究した下村脩(おさむ)博士が、ノーベル化学賞を受賞したことをみなさんは知っているだろう。クラゲの発光が体内のタンパク質(GFP)によって起きていることを突き止めたのが下村博士で、現在、このGFPというタンパク質は、がん細胞やアルツハイマー細胞などを発光させて観察する蛍光マーカーをはじめ、医療分野を中心としてさまざまに利用されている。

この本はその他、ネバネバの「長いも」には、インフルエンザウイルスに抗する有効成分が含まれ、研究の結果、インフルエンザ予防食品を生み出しているとか、ゴキブリの素早く逃げたり、飛んだりする生態が、次世代自動車の開発に生かされているとか、桑を食べる蚕(かいこ)がつくり出す生糸=シルクの成分が紫外線カットに有効で、ケアクリームが開発されているとか・・・これ以上は言わないが、実に面白い。作者の赤池さんは本の後半でこう述べている。

「生物に学ぶ科学観の本質は、すでに形になった知識の体系を網羅的に学ぶことではなく、自然界のどこに『私や社会や未来のための知恵の宝』が埋まっているかを嗅ぎ分け、自分の頭で考える『直感と論理に裏付けられた科学的思考力』を養うことにある」と。

 

2冊目。『小説8050』。(中略)「8050」とは、ひきこもったまま50代になったわが子を80代の年老いた親が面倒を見ているような家庭を指し、ひきこもりの著しい高齢化が進む現状を象徴することばである。

少しストーリーを紹介する。50代の歯科医は、妻と優秀な娘にめぐまれ、傍目には幸せな家庭を築いていたが、彼には大きな悩みがあった。20歳の息子の翔太が、7年間もひきこもっているのだ。翔太は医師をめざして有名中学校に合格したが中学でいじめにあって不登校となり、そのまま部屋から出られなくなった。

この本は、ひきこもり家庭の空気感が圧倒的なリアリティーを持って描かいている。(中略)

わたしは、作者の林真理子さんが、社会問題となっている「ひきこもり」現象とその周辺を徹底的に調べ上げていると思った。その事実に裏打ちされた作者の想像力に、わたしは共感を覚えた。

わたしが諸君に言いたいことは何か。自分に問うて、悩んでほしい。

もちろん、この本はフィクション(虚構=作り話=小説)である。だが、先ほど伝えたように、作者は事実を徹底的に調べているから、「ひきこもり家庭の空気感が圧倒的なリアリティーを持って」私に迫ってきた。中学時代のいじめがきっかけでひきこもった20歳の息子の翔太が、どうしていじめられるようになったかが書かれた場面が私の脳裏からずっと離れないのだ。いじめのきっかけは・・・以下、その述懐シーンである。

「日常的に暴力を受けていたということですが、きっかけは何だったんでしょうか。」

「歯磨きだったと思います。(父が歯科医なので)、弁当を食べた後、僕は子どものころからの習慣で、トイレの洗面所で歯を磨いていました。歯磨きセットが幼稚園から好きだったキャラクターもので、それがおかしいとからかわれたのが最初です。入学して間もなくでした。」

「歯ブラシが古くなると母が新しいものに替えてくれました。それがピンク色だったのを見つけて金井君たちが囃し立てて、トイレの便器に投げ込んだりしました。」

いじめはエスカレートし、翔太はこのあと、焼却炉に閉じ込められたり、校舎から宙づりにさ

れたりして、学校に行けなくなって7年間、ひきこもった。

 

諸君、他者をバカにしたり悪口をいったりしてはならない。他者がいやがることは決してやってはならない。絶対に他者をいじめてはならない。いじめていい理由などこの世に存在しない。

くしくも、東京オリンピックの開会式で、作曲の担当者の1人だった人物が過去、障がいのある同級生をいじめていたことを雑誌に語ったことが問題視されて、担当を辞任したというニュースが駆けめぐっている。その人物は、自分がやっていたいじめを笑い話として、また自慢話のように語っていたという。わたしは、怒りに震える思いだが、諸君には、このことも教訓にしてほしい。

絶対にやってならない過ちを一度でもやってしまうと、必ずどこかで社会的な制裁を受けるのだということを。

諸君、やってはならないことはやってはならないのだ。もしも弱い心が働いて、やってはならないことをやろうとする仲間がいたら、あなたが、「やめようや」と言わなければならないし、その人につづいて、あなたが、「そうだ、私もそう思う。やめようよ」と言わなければならない。

いじめをなくし、人を救うには、最初の勇気と2番目の勇気がとても大切なのだ、と私は思う。

 

1学期、自分のまわりにそんなシーンはなかっただろうか。勇気をもって、だめなことはダメと思って、やめたであろうか。「やめようよ」と言えたであろうか。「そうだ、私もそう思う」と言ったであろうか。いま、自分に問い、悩んで、次には勇気を振り絞ってほしいと願う。

 

教職員のみなさん。わたしたちの船「盈進丸」は、図書館船「ひまわり」の如く、子どもたちをワクワクさせているだろうか。(中略)わたしたちは、「盈進丸」の操縦を間違ってはならない、と肝に銘じよう。そして、瀬戸の島々に希望を運び続けた「ひまわり」の如く、かけがえのない生徒たちの未来を「航海」し続けなければならない、と私は思う。

 

諸君、教職員のみなさん、健康といのち第一に、よい夏休みを。終わります。

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