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2022年度 1学期「終業のことば(校長)」

2022年07月20日

2022年度 1学期「終業のことば」(一部)

前略

諸君、どんな1学期だっただろうか?コロナ第6波で学級閉鎖や学年閉鎖も続いた。そんな中でも、諸君の努力で「できるだけ通常の生活」を維持してきた。保護者観戦の制限はあったものの、大運動会も開催できた。諸君の晴れやかな表情が実にまぶしかった。

先日12日には、その大運動会ではできなかった「マスゲーム」を実施できた。やはり、先輩たちから引き継がれてきた伝統を守っていくことは大切だと改めて思った。

 

6月、コロナと共に高校生活を送ってきた6年生の長崎学習旅行を実施できた。6年生の節度ある日常があってこその実施だった。

9月、3年ぶりの感謝祭を開催予定だ。1年から5年生までの諸君は、深く自覚してほしい。

感謝祭はその名の通り、本校118年の伝統は、「地域の方々に支えられてこそ」であり、そのことに対し、感謝の心でおもてなしをする行事である。その「おもてなし」をする諸君は最初から最後まで主人公であらなければならない。

そのことを念頭に、諸君が考え抜いた企画案を提出してほしい。教職員は、生徒と、あるいは教職員間で対話を繰り返し、生徒の企画案が、よりよく、より楽しく、そして、より時代を見すえたものとなるようにアイディアを共有してほしい。その際、感謝祭を担う生徒全員がiPadをもっていること、ICTを完備している本校校舎を存分に活用することも意識してほしい。

 

きょうは「面倒でも対話を」をテーマに話をする。今日はその「Chapter1」(第1章)。

来月の2学期始業式はその「Chapter2」(第2章)とする。

 

ロシアによるウクライナへの侵略が始まってもうすぐ5ヶ月である。私は報道を耳にしながら毎日、怒り、そして胸が苦しい。独裁者的なプーチン大統領率いるロシアによるこの戦争は、多くの人々が指摘しているように「民主主義への挑戦」と言うことができる。

「民主主義」。諸君に問う。そもそもそれは、どういうことか。「民=わたしたち市民」が「主権者であり、主人公」である政治的かつ社会的な仕組み。そう、自分たちの学校、自分たちの地域、自分たちの国、自分たちの未来は、自分たちで決めるということである。

諸君に問う。民主主義の基本は何か。「少数意見の尊重」である。であるから、民主主義には、他者の意見に耳を傾ける知恵と勇気が必要である。

諸君に問う。では、その要諦は何か。「対話」である。プーチン大統領は「対話」ではなく、直接的な暴力を用いて自国の主義主張を展開し、自国の利益を得ようとしているのである。

安倍晋三元首相が参議院議員選挙期間中の8日、遊説中に襲撃され、亡くなった。報道に従えば、政治的な考え方の相違によるテロリズムではないと思える。だが当然、暴力によって恨みを晴らすようなこと自体、あってはならない。

歴史を見れば、直接的な暴力によって政治家が命を奪われる事件がいくつか思い浮かぶ。なかでも1932年5月15日、海軍の青年将校らが「満州国」建国に異を唱えた時の首相、犬養毅を襲撃した事件、いわゆる「5.15事件」が私の脳裏をかすめる。首相官邸を襲った将校たちは犬養首相に銃を向ける。それに対して犬養が「話をしよう」と言った。しかし、将校は「問答無用!」と言って、銃殺したことはあまりに有名である。

そう、犬養は、民主主義の要諦である「対話」をのぞんだが、将校たちはそれを拒否した、という瞬間である。このシーンは戦前において、民主主義の基盤としての政党政治の終焉を如実に物語っている。

だから私は、このようなときだからこそ、私たちひとりひとりが民主的な社会を構成する一人としての自覚を持って「面倒でも対話を」しなければならないと思う。「対話」は時として面倒である。意見が違う人との対話は時間もかかるし、根気もいる。時には、怒りをおさえるためにエネルギーも使うし、疲れることもある。そう言う私は実は、対話が得意ではない、と自分で思っている。だから、「面倒でも対話を」というテーマは、私が私自身に向けて言っている戒めでもある。私自身が、他者の意見に耳を傾け、他者の意見と存在を尊重するためである。

(地図を見ながら)目線を世界に向けよう。ここがロシア、ここがウクライナ。しかし、戦争や紛争はウクライナだけではない。ピンクの地域は、紛争地域。ここはタリバンが支配するアフガニスタン、内戦が続くイラク、シリア、イエメン、リビア、そして、軍部が民主派のアウンサン・スーチーを追放したミャンマー。ここはスリランカ。先日、経済危機に怒りを爆発させた市民が政府にその矛先を向けて、とうとう、ラジャパクサ大統領は国外に逃亡。国内は混乱状態である。

ここは韓国。首都ソウルには、姉妹縁組の五山高校がある。コロナ禍で縁遠く感じるようになったことが悲しい。冷え切った日韓関係である。政権もユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領に移行した。韓国の仲間といまこそ、対話したい。

先日、BTSが活動休止を発表したと知った。英字新聞には「BTS band’s break rekindles debate about military service in South korea.」とあった。「BTSの活動休止は、韓国での兵役についての議論を再燃させる」ということである。

 

目線を国内と私たちの日常に戻そう。5月、沖縄「本土復帰」50年を迎えた。沖縄には、姉妹縁組をしている沖縄尚学中高がある。コロナ禍で直接、交流できないのがさびしい。

国土面積0.6%の沖縄に、日本駐留米軍基地の70%がある現実はまさに、本土に暮らす私たちの問題だと私は思う。

6月23日。「沖縄慰霊の日」。沖縄戦の激戦地であった摩文仁の丘には、国籍を問わず、沖縄戦で亡くなった人々の名を刻む「平和の礎(いしじ)」がある。今年も、亡くなったご遺族や友人の名を指でなぞるおじいやおばあの姿が映し出されたが、やはり私の目にも涙がにじんだ。

おじいやおばあはずっと、あの戦争で亡くなった人々と、現在も「対話」しているのである。

それは、広島や長崎の被爆者も同じである。その対話から「平和の尊さ」が絞り出され、紡がれ、語り継がれた結果、私たちの日本は78年間、戦争をしなかったのである。

 

6月、オーストリアのウィーンで「核兵器禁止条約」に関する初の締約国会議が開催された。日本はオブザーバー参加も見送った。この会議に際し、現地では、諸君の先輩である慶應義塾大学法学部4年生の高橋悠太君が若者の中心として活躍。日本政府の代表に「対話するよう」呼びかけるシーンに被爆者の方々はどれだけ大きな希望を抱いたことか。このようすは今週末22日(金)19:30~NHK「コネクト」で放映予定である。諸君も是非、視聴してほしい。

 

激変の世界情勢と社会状況。時間が早く回っているからこそ、立ち止まって、ゆっくり考える時間が必要だと私は思う。それが読書。読書は「どう生きるか」という哲学を授けてくれる。たった1冊の本が、その中のたった1行が自分の人生を支えることになると私は信じている。

紹介したい本はたくさんあるが、今日は4冊。

 

まず、『中学生から知りたいウクライナのこと』。「ウクライナへの侵略戦争」という現実と対話できる。私がずっと注目している京都大学の藤原辰史先生と、同じ京都大学の小山哲(さとし)先生の共著。

タイトルに「中学生から」とあるが、民族的にも宗教的にも言語的にも、そして、隣国との長い歴史的な関係から言っても複雑な状況を抱えてきたウクライナの問題である。だが、それが、できるだけわかりやすく書かれている。

本の中の「私たちに求められること」の項にこうある。「複雑な現象の複雑さに目を凝らし、心を落ちつかせて『学ぶ』ことが重要」であると。

侵略が始まった3日後の2月26日、藤原先生や小山先生らが出した声明文も掲載されている。一部を紹介する。全部を読みたい人は本を貸し出すので校長室へ。また、「自由と平和のための京大有志の会」で検索すればネットで読むことができる。

「ロシアによるウクライナ侵略を批難し、ウクライナの人々に連帯する声明」(以下、一部)

・朝、ベッドの上で目を覚まし、昼、学校で遊んだり職場で働いたり、夕方、家に帰って家族と食卓を囲んだり、街へ出て友人や恋人と遊んだりしたあと、夜、静かに眠りにつく、そんなウクライナの大人や子どもの普通の暮らしを一方的に破壊したこと、爆撃によって家を失い、警報が鳴るたびに地下鉄の駅に避難し、不安と恐怖で眠れない夜を過ごさなければならない状況を生み出したことを、批難します。

・世界中がコロナ禍に苦しむなか、ウクライナで感染をさらに拡大し、かつて大惨事を起こした原子力発電所から放射性物質がふたたび広範囲に拡散する危険をともなう戦争を起こしたことを、批難します。

・私たちはウクライナの人びとの痛みを自分たち自身の痛みとして受けとめ、この戦争に反対する声をあげる世界のすべての人びととの連帯を表明します。

 

2冊目と3冊目は「自分と対話する」絵本。

2冊目は『おおきな木』。こんな感じの絵本。世界的な大ベストセラー。ノーベル賞候補作家の村上春樹さんの訳。村上春樹さんが「あとがき」にこう記している。「あなたはこの少年に似ているかもしれません。それともひょっとして両方に似ているかもしれません。あなたは木であり、また少年であるかもしれません」と。読了後にじんわり泣けてくる。

3冊目は『りんごかもしれない』。大好きな「ヨシタケシンスケ」さんの絵本。物事を多面的にとらえるという哲学がある。こんな感じの絵本。頭や体が疲れているときに読むのが、私にはちょうどいい。時には腹を抱えて笑って、頭が柔軟になる、と「思えるかもしれない」。

4冊目は最近、知人と本や文学について対話している時にふと、読みたくなった作品。「学生時代に読んだっけ」と思い出をたどり、自宅の書庫から引っ張り出して読んだ。芥川龍之介の短編集。なかでも『蜜柑』という作品。名作である。15分ほどで読めるが、そのラストシーンに素朴な娘の愛がほとばしる。そしてうなる。「さすが芥川だよ」と。名作は読んでみる価値に満ちている。芥川は、諸君からするとまったく過去の人だろう。ということは、「蜜柑」はすでに「古典」という領域かもしれない。でも、その文学的芸術性に触れたら、誰でもこてんぱんにやられる、「かもしれない」。

 

5つのクラブが新設された。応援部が、「ほこれよ盈進」の志気を高めている。応援部が必ず歌う盈進の「応援歌」がホームページで視聴できるようにするので諸君も教職員もいっしょに歌えるようにしてほしいと願う。

読書部、ダンス部、写真部、家庭科部の献身的な行動と独創性にますます期待している。具体的には2学期始業式で述べる。この5つに限らず、すべてのクラブ活動で自分の能力を存分に発揮してほしい。そして、盈進共育「仲間と共に、自分で考え、自分で行動する」諸君であってほしいと願う。

 

6月、建学の精神に則って、「地域貢献in神辺」を開催した。私は2日ともすべて、鑑賞した。1,300人もの来場者があった。会場からの声や拍手の大きさに不思議なほど「ほこれよ盈進」の一体感を感じて、自分が盈進の一員であることが実に誇らしかった。

第1部では、応援部のエールから始まり、生徒会執行部の学校紹介、ヒューマンライツ部の活動報告があった。放送部のアナウンスも見事だった。

そして第2部。音楽部の「グリーンコンサート」。まさに「圧巻」だった。心こもったサウンドは、圧倒的な熱量で観客を魅了した。私は初日の演奏に、出演した生徒すべての能力の高さと盈進生としての誇り高きidentityを全身に浴びた。そして、途中から涙が込み上げた。

 

先日、「理系探究」がまず、4年生から始まった。自然科学の奥深さを感じられたであろうか。

自然科学と対話できたであろうか?

 

昨日、京都外国語大学の小野先生のお話もすばらしかった。小野先生は8月から学長に就任される。京都外国語大学は盈進の教育協力校である。共に未来をつくりたい。

 

昨日の「ホンモノ講座」。『すばらしい人体』という本を昨年度2学期の「終業のことば」で諸君に紹介したことがきっかけで、著者の山本先生が来校してくださった。私たちは、本と出合い、人と出会う。本と対話し、人と対話し、また、自分と対話するのである。

 

夏休み。決して事故のないように。元気でまた会おう。終わります。

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