2024年03月21日
3学期 終業式 校長
きょうは本校の原点に返り, 建学の精神に基づく「平和・ひと・環境を大切にする学び舎」を意識し, いつも伝えている盈進共育「仲間と共に, 自分で考え, 自分で行動する」をテーマに話をする。
盈進の建学の精神, すなわち, 盈進が最も大切にしている考え方は「実学の体得」=「社会に貢献する人材となる」であるから, 盈進に集うすべての教職員と生徒には, その考えのもと, 「平和・ひと環境を大切にする」精神を持ち, 「仲間と共に, 自分で考え, 自分で行動する」という盈進共育を実践することが求められる。まずはこのことを改めて認識してもらいたい。この認識に基づき, すべての教職員とすべての生徒に問う。
最初に、登下校。(中略)盈進坂を自分で登ってくる意味。それは第一に, 自分で登下校する, 自分で学校に行く, 自分で学習するという心身の鍛練である。第二に, 交通安全だ。(中略)
次に欠席遅刻。(中略)よく休む仲間がいれば, 「明日は来ようよ」と声をかけ, 励ましてほしい。中学校の生徒会選挙である立候補者が言っていた。休みがちな友だちが学校に来たのがうれしくて, 「また明日」と言ったら, その友だちは次の日も来た。それがとてもうれしかったと。わたしはそれを聞いていて胸が熱くなった。すばらしいことだ。わたしが担任だったとき, 最もうれしいことは, 自分のクラスの生徒が朝, 全員出席していること, そして, 午後のSHRで「また明日」とクラスの生徒全員に言えることであった。先生方も毎日、是非、生徒たちにそのように語りかけてほしい。
3日前にあった中学校卒業式でわたしは(瀬尾まいこさんの『そして, バトンは渡された』という本の中から引用して)こんな話をした。(中略)優子という名の主人公が, 「親になる」という意味を聞くシーンである。
「優子ちゃんの親になってから, 明日が二つになったよ。自分の明日と, 自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ(ふたつの明日が, やってくるんだ。親になるってことは, 未来が二倍以上になるということだよ。明日が二つになるなんてすごいと思わない?自分のより, ずっと大事な明日が毎日やってくる。すごいよなあ。どんな厄介なことが付いて回ったとしても, 自分以外の未来に, 手が触れられる毎日があるということなんだ。それって, すごいことなんだ」
諸君はみな, われわれ教職員にとって「毎日やってくる大事な, 本当に大事な明日」なのだ。
ここに諸君がいることがすでに奇跡であり, 諸君がいるから, わたしたち大人も, 明日に希望を持てるのだよ。だから諸君, 毎日元気に学校に来てほしい。そして, そうなるように, 仲間に声をかけ続けてほしい。お願いする。
そのためにも, 十分な睡眠時間の確保と家庭学習の習慣を身につけること。毎日の生活のリズムを整えることが大切だ。
そして, 徹底して, 授業に集中すること。毎日, 毎時間の授業こそ, 高い目標に向かう進路そのものであることを肝に銘じること。盈進は, 脳科学と睡眠学から学び, できるだけ8時間の睡眠確保と最低1時間以上の集中した家庭学習を, 学校の意志として積極的に奨励する。このことを意識して実行し, 生活リズムを整える。スマホやゲーム, YouTube, インターネットの時間や, 何らかの夜の活動等に時間をかけすぎて, 睡眠時間や学習時間が削られ, 生活のリズムが乱れているとしたら, 夢や目標の実現は遠ざかる。改善できないなら, 誰でもいい, 仲間やご両親, 先輩や先生, 誰でもいい。相談して, 改善すること。
次にあいさつ。もっと笑顔で, もっと元気にしてほしい。先生方ももっと元気に、もっと笑顔であいさつしてほしい。(中略) ときどき他校から盈進を視察に来られる先生方が異口同音に、諸君の明るさ, 笑顔, あいさつに驚かれ、「いいですね」とおっしゃる。実に誇らしい。
盈進に進学を決める人の多くは, 諸君のあいさつに感激されている。坂道での立ち止まってのあいさつは他のどこの学校にもない光景だ。実にすばらしい。社会人としてもっとも信頼される第一印象は, あいさつであることは間違いない。いやそれは, 大学受験や就職試験の面接においても同じである。
入試など, いざというときの行動や印象は, 2,3日, いや, 1,2ヶ月練習したからといって身につくものではない。日ごろからちゃんと, 相手を敬うあいさつをしているかどうかは, 少し大げさに言えば, 一生を決めることでもあるということを認識してほしい。『おはようございます』『こんにちは』『失礼します』『ありがとうございます』などのあいさつが飛び交う学校は, 誰もが安心して, 楽しく過ごせる場所である。
次にクラブ活動。(中略)諸君はこの2023年度もよく努力したと思う。これからもクラブ活動で, 規則正しい生活を送り, 自分の能力を存分に発揮してほしい。いま, 本館(新校舎)2階にすべてのクラブの年間と月間の目標を掲示し, 互いに確認し, 互いに伸び合うシステムを準備中である。今後, この掲示板も活用し, もっともっと成長してほしい。日々のプロセスを大切にしてほしい。すると自ずと結果がついてくる。
盈進は,人として,社会人として必要な「社会に貢献する力」を身につけるために,礼儀, 礼節, 根気, 自主性, 主体性, 継続力, 組織力, 共感力, 協調性, 体力, 気力, 帰属意識, 連帯意識等々を育むために学力の向上と両輪で, クラブ活動を重要視している。毎日のクラブ活動で,特にキャプテンや副キャプテン,部長や副部長を中心に仲間と力を合わせ,自分の能力を存分に発揮し,困難に打ち克つ心と体を鍛えほしい。そして, この近辺の小中学生たちが, EISHIN」の文字をまとったユニフォームやTシャツ等を着て, 盈進の一員として, 盈進のクラブで活躍することを夢見るように, 地域の人々に愛され, 憧れの存在であってほしいと願う。
クラブ活動をする意味をもうひとつ述べる。大学入試に基礎学力は必ず必要だ。基礎学力がなければ目標校には合格しない。レベルの高い大学ならなおさらだ。だから日々授業に集中し, 授業中に理解すること。そして毎日最低, 1時間は集中する家庭学習を欠かさないこと。
いま大学は, 国公立大学も私立大学も, 基礎学力はもちろんだが, その先に, なぜこの大学, この学部, この学科を選んだのか, それを問うために, 小論文や面接を重要視する。
その際, 「あなたは中高時代, 何に打ち込んだか」が問われる。その場合, クラブ活動をやっている人は, そこで培った経験をもとにその入試に向かうことができる。(中略)
わたしは諸君にこう伝え続けてきた。「学校で一番大切なものは何か」「それは仲間だ」と。
2023年度が終わろうとしている。諸君に問う。本当に仲間を大切にしてきたか。自分は, 人の悪口を言わなかったか。SNSに書き込まなかったか。人を差別しなかったか。いじめやいじめにつながることばを使わなかったか。そんな態度をとらなかったか。人の悪口を聞いて, いじめや差別を見て, 「やめようよ」と言ったか。言えないにしても, 「わたしはやらない」と堅い意志を貫いたか。(中略)
2週間後には,新しい1年生と4年生が入学してくる。その模範となる上級生であってほしいと願う。
コロナで心身が疲れた。そして日常が変わった。何もかもデジタルとなった。政治バランスや経済も変わった。能登半島地震による被災者のことを忘れてはならないと思う。ウクライナやパレスチナで死傷者が増え続けている現実に胸が抉られる。世界のいたるところで, 抑圧や弾圧が続き, 自由や平等, 人権や民主主義, 法の支配といった普遍的価値さえ, その本質が見えにくくなっているばかりではなく, いまや心もとない。そしていま, 核の脅威や気候変動の問題(環境破壊)は人類生存の危機であると, 日々の暮らしの中で意識せざるを得なくなった。
いま, 世界は戦争中だ。ウクライナやパレスチナのガザが戦場だ。それのみならず, アフガニスタン市民のタリバン支配による苦難, シリアやスーダンの紛争, ミャンマーの圧政など。世界のあちこちで権威主義の独裁者たちが人権と平和を侵害し, 民主主義を踏みにじっている。そして, 能登半島地震も, 難民問題も, 子どもの貧困も, 先日やってきた「3・11」後13年目のこの国のありようもすべて, わたしたちの日々の暮らしと結びついている。社会で起きているすべては他人事ではない。自分が, 世界の平和や人権の確立にどう貢献できるかという命題は, わたしたちすべてに課せられている。
わたしたちは, 激変の時代だからこそ, 人と出会い, 人から学び, 想像力と共感力を持ち, 隣にいる人と, そして, 世界の人々と, 「共に生きる」という視点を失ってはならない。
先ほど, クラブ活動についての話でも触れたが, いま, 大学は, 基礎学力の先に, 小論文や面接を重視している。すると, いかにたくさんの語彙力を獲得し, いかに多様な意見や考え方を中高時代に学んでいるかが, その成否を決めると言ってもいい。
そのためにも何が必要か。読書である。ひとは, 読書をしなくても生きていけるが, 読書があれば, ひとはより豊かに生きていける, とわたしは思う。
先ほど,『そして, バトンは渡された』を紹介した。2018年の「本屋大賞」。いま, 図書館でも特別コーナーを設けて紹介しているので,諸君も手に取って読んでほしいと思う。春休みだ。長期の休みにこそ, 図書館や「のBooks」で本を借りて, 読書に浸ってほしいと思う。
今年度の直木賞に万城目学の『八月の御所グラウンド』が選ばれた。わたしも読んだ。痛快だった。この本には, 2つの不思議なドラマが収録されている。どちらも青春小説だと言っていい。
1つ目。「十二月の都大路上下(かけ)ル」。そう, 京都を舞台に繰り広げられる男女の高校駅伝全国大会。その大会前日, 急遽レースの最終区走者としてエントリーされることになった坂東。方向音痴の彼女は, 吹雪のレース中, 案の定コースを外れそうになるのだが……わたしは思いがけない展開に腹を抱えて笑った。
2つ目。「八月の御所グラウンド」。彼女にフラれた痛手から, 就職活動も諦め, 自堕落に過ごしていた大学4年生の朽木は, 友人の多聞から, 借金のかたとして, 強制的に草野球の大会に駆り出されることになるのだが……。無気力の塊の朽木と, 要領の良さで世の中を渡ってきた多聞。 この二人が, 物語のラストで語り合うシーンにジーンとする。京都五山の送り火を眺めながら, 静かに問いかけた多聞のことばである。「なあ朽木。俺たち, ちゃんと生きてるか?」。この台詞に, 「自分もちゃんと生きてるか?」と誰もが自問するだろう。
もう一冊。少し, 頁をめくってみる。
(以下、絵本『へいわとせんそう』(文:谷川俊太郎、絵:Noritake ブロンズ新社刊)を紹介した)
事故や災害, 医療などをテーマに執筆を続けるノンフィクション作家の柳田邦男さん。絵本への造詣も深く, 「大人にこそ絵本を」と訴えている。以下, その柳田さんから教わったことである。
ある保育士が, ロシアによるウクライナ侵攻のことを思い, 平和をテーマにした絵本の読み聞かせをしていた。その中の一冊が, 詩人の谷川俊太郎さんが文を担当したこの『へいわとせんそう』だった。読み聞かせをした日, 一人の男の子が窓の外を見てつぶやいた。『ヘいわのぎょうれつだ』と。視線の先には, 保護者が迎えに来て笑顔になる子どもたちの姿や, 言葉を交わしながら門へ向かって歩いていく親子の列があった。柳田邦男さんは言う。「これが子どもたちの気づきなのですね」。
諸君も是非, 図書館や「のBooks」で, 絵本を含む本を手にと入り, 社会の出来事, 世界の出来事に対する「気づき」を宿してほしい。
人生の可能性をどれだけ広げられるか。それは自分次第だ。他者から与えられるものには限界がある。しかし, 自分から求め, 気づけば, その可能性は尽きることはなく, さらに大きくなる。
進級する諸君にますます期待する。そして, 諸君が本当の新しい盈進の, そして, 答えのない新しい時代の真のChallengerであり, Pioneerになると信じている。
今年度, 1学期始業式で, わたしは諸君に非暴力主義を掲げ,インド独立の中心となったマハトマ・ガンジーのことばを紹介した。Be the change you want to see in the world. あなたがこの世界で見たい変化にあなた自身がなりなさい。
原点に返り, 原点を忘れず, いま, 変わるんだ。 終わります。