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2024年度 盈進中学高等学校 入学式 校長式辞

2024年04月06日

2024年度 入学式  校長式辞

「仲間と共に!自分で考え、自分で行動する。Be a challenger、Be a pioneer」

 

本日ここに創立120年の伝統校、私学盈進の入学式が挙行できることをうれしく思うと共に

千田学区町内会 連合会会長・藤井誠司さま、千田小学校校長・石田典久さま、盈進学園同窓会長・小林茂之(しげゆき)さま、保護者会長・宮永裕美(ゆみ)様をはじめ、ご臨席のみなさまに心より感謝申し上げます。

さわやかな春の訪れ。盈進坂300本の満開の桜が、みなさんを歓迎しています。新入生のみなさん、入学おめでとう。保護者のみなさま、お子さまのご入学、誠におめでとうございます。数ある中から、わが私学盈進を選んでいただき、心から感謝申し上げます。

盈進は、創立者藤井曹太郎先生によって1904年(明治37年)に創立され、今年で120年目を迎える、全国でも屈指の伝統の私学である。この間、わが盈進は、幾多の戦争と、激動の時代を乗り越え、いま、ここにある。

政治、経済の世界をはじめ、法律、スポーツ、芸術の世界など、あらゆる分野で活躍する卒業生約3万人が母校盈進と諸君を見守っている。福山周辺の企業の約70%が盈進の卒業生、あるいは関係者が会長や取締役など最重要ポストに就いておられる。まさに、地元の経済界を支え、発展させてきたのは、わが盈進の同窓生であると言っても過言ではない。

この120年の間、校舎も、東町の製糸工場跡からはじまり、三吉町校舎を経て、1972年(昭和47年)に、この千田町へ移転した。以来、今日まで50年以上が経過したが、5年前、高校校舎を新築、中学校校舎を改築し、ICT環境や読書環境、そしてグラウンドも整えた。そうして、諸君は、極めて機能性の高い校舎で学習やクラブ活動ができることとなった。

諸君は是非とも、この歴史と伝統を深く自覚し、盈進生として常に、他者への感謝を忘れず、とりわけ、社会的に弱い立場にある人たちの痛みを感じ、「共に生きる」気持ちを持ち、謙虚に、そして誇り高く生活してほしい。盈進の教職員はみな、心を合わせて、諸君を心から愛する。愛することは支え合うこと。「共に学び、共に生きる」ことである。

この4年間、諸君は、コロナによく耐えた。大切な人に会えないのは本当に辛かった。だから一期一会、たった一度の出会いを大切にしてほしいと願う。

いま、ウクライナやガザの戦火の中で、怯えながら恐怖と欠乏にあえぎ、悲しむ人々を思うとき、誰もが、胸をかきむしられることであろう。だから、いまこそ、ひとりひとりが、ひとりの人間として、毎日をどう過ごすか、そして「どう生きるか」を自らに問わなければならない。

 諸君、学校生活で最も大切なものは何か。それは「仲間」だと私は信じる。かけがえのない仲間がいれば、喜びも痛みも分かち合える。だったら、学習も、クラブも、行事も必ず楽しい。

だから、いま出会った仲間と心から信頼できる関係をつくってほしい。盈進には、「eスマイル宣言」という、生徒自らがつくった、ひとりひとりが尊重され、仲間を大切にするためのルールがある。それに従って日々、生活しよう。

盈進の建学の精神は「実学の体得」。すなわち「社会に貢献する人材となる」である。そのために、自分はどんな人になるか、どんな職業に就き、どのように社会に貢献するかを、常に自分に問うて悩む。将来のことを仲間と語る。語ってはまた悩む。その「問うて、悩む」プロセスと時間が自分を鍛える。そして夢を大きくし、目標を高くしてくれると私は考える。進路目標は、本日配布した『輝く先輩』の冊子を大いに参考にしてほしい。

盈進は、「基礎学力の向上」はもちろんのこと、教育の大きな柱に「クラブ活動」を位置づけている。クラブ活動は、キャプテンや部長を中心とした生徒主体の自主的、自発的な活動である。中高一貫のよき先輩・後輩の関係性の中で、全人格の形成に資する責任感、忍耐力、協調性、共感力、思考力等々、社会に貢献するための大切な力を育む。

ここ数年、剣道部、フェンシング部、硬式野球部、バドミントン部は全国大会へ出場した。それ以外のクラブも中国大会や広島県の上位レベルで活躍した。

文化部も全国レベルの評価を受け、複数の生徒が内閣総理大臣賞を受賞した。北校舎にはためく懸垂幕がそれを物語る。諸君も是非クラブ活動で、心と体を鍛えてほしい。

クラブ活動の最大の目的は、人間性を鍛えること、仲間と友情を育み、部員相互の信頼や絆を結ぶこと。それを育むプロセスの充実が、高い成果に結びつくということを忘れてはならない。

いま、わたしたちは国境を越えたGlobalな時代に生きている。だから、世界の人々と「共に生きる」ために、大学はもちろん、社会では語学力が求められる。だから盈進は、英語検定の取得を奨励し、校内には英検上位級取得者を掲示している。また、毎日の時間割の中に、Listening Timeを設け、全校あげて、英語力強化に努めている。

『輝く先輩』にある、同志社大学英文学科へ進学する苅屋真応さんは、英語学習法についてこう語る。「世界の人々と繋がりたい。そう思ったのは、中学2年生で行った「English Tour in Kyoto」で、京都外国語大学の留学生と英語で話をしたのがきっかけだった。英単語は毎日、発音しながらノートに書いて覚えた。歩いているときも覚えた。英語の音楽を聴いて、覚えた単語が聞き取れたときはうれしかった。そして英語が好きになった。Listening Timeではとにかく発音に注意した。こうした毎日の学習が、そのまま受験の力となった。」

いま、何もかもがデジタルとなった。AIも出現した。宇宙開発は日常の話題となった。自分の隣に多国籍の人がいるのもあたりまえとなってきた。そうして、わたしたちの生活は急激に変化し、また、コロナのような病はもちろん、地球環境破壊や核兵器の脅しなど、予測がつかない混沌とした未来がいくつも横たわっている。

だから本を読む。読書は「自分で考え、自分で行動する」ための多様な価値観を学ぶためにある。読書は、人生のすべてが単純ではないと教えてくれる。そして、その学びの向こうに「仲間と共にどう生きるか」という知恵と哲学を授けてくれる。

読書は常に自分との、あるいは「誰か」や「何か」との対話である。本からことばを受け取り、感情が豊かに耕され、そこから、それまで知らなかった世界へと視野が広がっていく。そして自ずと自分が使うことばに責任を持つことを覚える。

いま、大学は、激変する答えのない時代を生きるための力、すべての学習の土台としての「読解力(読み解く力)」と「論理的思考力(根拠を持って深く考える力)」を求めている。私は、ものごとを“複眼的に考える力”が真の読解力や論理的思考力だと考えているが、それらの力を身につけるためには、日頃からの読書体験が不可欠である。

『輝く先輩』にある、北海道大学文学部に進学する剣道部キャプテンだった民宅航平くんは、こう語る。「文武両道。盈進にはクラブ活動に全力で取り組みながら、いつでも勉強に集中できる環境があった。読書の時間で、もっと本が好きになり、国語力が自然に身についた。

最後の大会を終え、竹刀をペンに持ち替え、本格的に、受験勉強をスタートさせた。学校では夜8時まで学習に励み、補習では、徹底的に苦手克服に努めた。通学の電車でも暗記科目に取り組んだ。とにかく毎日、学校で勉強し続けた。一番心の支えになったのは、高い目標に向かって努力する仲間の存在。仲間がいたから、ずっとふんばることができた。」

苅屋さんと民宅くん。二人には共通項がある。何か。「書く」である。覚えるために書く。

考えるために書く。書いて覚え、書いて考える。

この10年で東京大学や京都大学の学生に最も読まれた本。外山滋比古の『思考の整理学』。

「Physiology」の生理学ではない。「考えを整理する」という意味。この本には、「自分で考え、自分で行動し、自ら学べ」という理念が通底する。その中で外山は、「とにかく書いてみる」ことをすすめる。「書くと自分の頭がいかに混乱しているかがわかる。………とにかく書いてみる。すると、もつれた糸のかたまりを少しずつ解きほぐして行くようにだんだん、考えていくことが、はっきりする」と。

先日、図書館の「本屋大賞」特設コーナから、一冊の本を手に取った。夏川草介の『スピノザの診察室』。スピノザは17世紀のオランダの哲学者である。わたしは学生時代、スピノザ哲学の難しさに困惑した思い出があった。だから、「スピノザ」の文字に惹かれた。

主人公の雄町哲郎は本当は、凄腕の医者なのだが、京都の地域病院で働く内科医。さまざまな病気と事情を抱えた患者たちの最期(死)と向き合う哲郎。その彼がたどり着いた「にんげんの幸せ」とは何だったのか。

ある日、アルコール性肝硬変の患者が一人暮らしのアパートで亡くなった。その検死(死亡について検査すること)に訪れた哲郎に、警察官が患者の免許証を渡たす。その裏にこんなメモ書きがあった。「おおきに 先生」と。「おおきに」は京都のことばで「ありがとう」。

人生の最後を、ひとりの医者として、そして、ひとりのにんげんとして、寄り添い、いたわった哲郎に対する感謝が記されていた。そのときの哲郎の、随行していた若い後輩の医者につぶやいたことばである。ここにスピノザの哲学がよく表れている。

世界から地震や津波をなくすことはできない。患者の膵臓癌を消し去ることだって不可能だ。我々にできることは、襲い掛かる津波から走って逃げることや、どこまで効くかもわからない抗がん剤を点滴することだけれど、それさえ、うまくいかないのが現実だろう。そうやって突き詰めれば、人間が自分の意志でできることなんて、ほとんどないことに気が付く。つまり人間は、世界という決められた枠組みの中で、無力な存在というわけだ。……人は無力な存在だから、互いに手を取り合わないと、たちまち無慈悲な世界に飲み込まれてしまう。手を取り合っても、世界を変えられるわけではないけれど、少しだけ景色は変わる。真っ暗な闇の中に小さな明かりがともるんだ。その明かりは、きっと同じように暗闇で震えている誰かを勇気づけてくれる。そんな風にして生み出されたささやかな勇気と安心のことを、人は『幸せ』と呼ぶんじゃないだろうか

世界はウクライナやガザの問題だけでない。アフガニスタン、スーダン、ミャンマー、シリア等々、世界のあちこちで権威主義と独裁者たちが人権と平和を侵害し、民主主義を踏みにじっている。難民問題も、子どもの貧困も、能登地震も台湾地震すべて、わたしたちの日々の暮らしに結びついている。だから誰もが当事者として、どうすれば自分は「平和・ひと・環境」を守るために貢献できるかを問い、悩み、考え、行動しなければならない。

人間は無力な存在だから、仲間と共に力を合わせならないのだ。だから、この盈進で、仲間と共に、授業や学級活動、クラブや行事、委員会活動で、心身を鍛え、本を読み、心と体を鍛え、教養を耕してほしいと願う。

地域に冠たる伝統校、わが盈進の合言葉は120年間、ずっと変わらず「仲間と共に」。

それは、「共に生きる」と同じ意味である。仲間との絆を大切にしてきたからこそ、120年の歴史が紡がれ、わが盈進はここにある。諸君には、新しい盈進の歴史と伝統を築くことを大いに期待する。その主人公は諸君以外に、ない。

激変するこの時代に、希望の光を灯すために、努力を惜しまない誇り高い盈進生として、常に問い、悩みながら自分を鍛えてほしい。わたしたち教職員の使命は、未来からの留学生である君たちを、責任を持って、未来へ送り返すことである。「仲間と共に! Be a challenger」挑戦者たれ、「Be a pioneer」開拓者たれ。盈進はそんな諸君を日々、全力で応援する。

 

2024年4月6日 盈進中学高等学校 校長 延 和聰

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