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2024年度 1学期「終業のことば(校長)」

2024年07月18日

1学期 終業式 校長あいさつ

 

約9ヶ月経っても、イスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘が終わらない。ガザの死者は約4万人。医療崩壊、食料、燃料、水不足による人道危機が広がっている。STOP GENOCIDE IN GAZA.

ロシアによるウクライナ侵略は2年4ヶ月。7月初旬、ウクライナの首都キーウが空爆を受け、死者も出た。ウクライナもガザも最も安全でなければならない病院や学校も攻撃されている。子どもたちが涙目で「怖いよ、死にたくないよ」と訴えている姿を見て胸が抉られる。

アフリカ北東部のスーダンでの紛争は2年目に入った。収束の兆しは見えない。人口の約3割を占める1200万もの人々が家を追われている。国境を越えられない国内難民は996万人と推計され、多数の死者が出ていると報じられている。

ミャンマーでは、軍部のクーデターから約3年半が経過。軍部は強硬姿勢を崩さず、市民側の犠牲者は5000人を超え、人道危機が深刻化している。

先週末にはトランプ米国大統領候補が銃によって襲撃されるというニュースも飛び込んできた。暴力による言論圧殺はいかなる場合も許されない。

世界はまさに混沌として、自由や平等を基礎とする平和と人権、民主主義が脅かされている。

国内に目を向ける。東京都知事選では、既成政党離れが目立った。金銭がからむ政治腐敗や政治の劣化を感じる。自衛隊の不正に耳を疑う。

7月3日、最高裁判所は障がいのある人の子孫を残す権利を奪った「旧優生保護法」を憲法違反だと断じた。旧優生保護法は、障がいのある人に対して、ウソをついてでも強制的に不妊手術をすることを許していた。障がいのある人への差別を長年、容認していた国に対し、最高裁が補償せよと命じたのである。人が人としてごくふつうに生きる権利を国が認めてこなかったこと、国が人を障がいや病気の有無で差別し、いのちの尊厳を踏みにじってきたことに対する国の責任を断じたのである。

時も同じ7月上旬、沖縄の在日米軍による性暴力が発覚した。国は事件を把握しながら、沖縄県には知らせていなかったことに対し、沖縄県の国への不信感が強まっている。

これは沖縄の問題ではない。私たちは、沖縄戦が本土防衛の「捨て石」として位置づけられ、凄惨極まる地上戦が展開された悲劇の歴史とその延長上にある米軍基地問題を想起しなければならない。国土面積0.6%の沖縄県に在日米軍基地の約70%がある現実をふまえれば、沖縄で起きている米軍関係の事件は本土に暮らす私たちの問題そのものだと言うことができると私は思う。

私は1995年、米兵による少女暴行事件の抗議に8万人が集まった沖縄での県民集会を思い出す。当時、地元の高校3年生だった仲村清子(すがこ)さんが、その集会でこう、私たちに訴えたことばを私は忘れない。「私たちに静かな沖縄を返してください。軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」と。

「この春は寂しかるべし校庭の土砂に桜の根刮ぎ崩る」。石川県の元小学校教員の三宅久子さんの短歌である。過疎化が進み、勤めていた学校が歴史に幕を下ろした。校庭に桜の木が残ったが、ことし元旦の地震で崖の下に崩れ落ちた。そのようすを歌にした。

だが、その桜が春、崩れたままで花を咲かせた。三宅さんは「感動して泣きました」と言う。

あれから半年が経過した。能登半島地震も決して他人事ではない。そこで起きることはここでも起きる。あなたに起きることは私にも起きるのである。

私たちはこのような世界、このような時代、このような社会状況の中で毎日、息を吸って過ごしている。その現実を決して、忘れてはならない。

中略

 

5月の「地域貢献in神辺」。生徒会、ダンス部、応援部のステージ、ホールでの写真部やヒューマンライツ部の展示はすばらしかった。音楽部グリーンコンサートには胸を打たれて感涙だった。毎日よく仲間と心を合わせて練習した成果だったと思う。まさに一音一心。

放送部もありがとう。それから演劇部。一昨日の公演。よかったよ。

今月末、そして来月初め、フェンシング部とバドミントン部は全国大会(インターハイ)出場。中学1年生二人が水泳の飛び込みで全国大会出場。中学バドミントン部は中国大会出場。誇りに思う。健闘を祈る。

明後日から5年生2人が、ヒロシマ・ナガサキの核廃絶の魂をジュネーブ国連で世界に訴えるため、外務省ユース非核特使として出発する。みな、私たちの代表だ。応援しよう。

毎日のクラブ活動で、特にキャプテンや副キャプテン、部長や副部長を中心に、仲間と力を合わせ、自分の能力を存分に発揮し、困難に打ち克つ心と体を鍛えほしい。そして、小中学生たちが、「EISHIN」の文字をまとったユニフォームやTシャツ等を着て、盈進の一員として、盈進のクラブで活躍することを夢見るように、地域の人々に愛され、憧れの存在であってほしいと願う。

いま大学は、基礎学力はもちろんのこと、その先に、なぜこの大学、この学部、この学科を選んだのか、それを問うために小論文や面接を重視する。その際「あなたは中高時代、何に打ち込んだか」が問われる。クラブ活動をやっている人は、そこで培った経験を元にその入試に向かうことができる。……(略)

 

昨年度3学期の終業式と今年度1学期の始業式で伝えたことはまだある。先輩の話だ。

今春から高知大学農林海洋科学部に進学した森井君は、バレーボール部の練習を終え、職員室のオープンスペースで毎日夜8時まで、いつも仲間といっしょに集中して勉強していた。森井君がこんなことを言っていた。

大学の面接試験で役に立ったのが、中学3年生で書いた修了論文と高校での探究活動だ。中学3年生の修了論文では、絶滅した生き物と環境の関係性について調べた。その延長で、高校では、海洋ゴミ問題や養殖について探究した。この学びを大学受験の面接で語った。つまり、中高時代の日々の学習が、私の大学受験の強みとなったのだ。

よりレベルの高い学習をしたいと思い、5年生からパイオニア特進コースを選択。試験問題も難しくなった分、毎日、必死に食らいついて勉強した。バレーボールで培った体力と集中力、そして、信頼する仲間たちが私の支えだったことは間違いない……森井君はこう、語っている。

3年生だけに限らないが、特に3年生。修了論文に一生懸命に向き合うんだ。その探究活動は真面目にやればやるほど、進路開拓に必ずつながる。

もう一人、今春から北海道大学文学部に進学した剣道部男子のキャプテンだった民宅航平君のことばやクラブ、勉強方法などについて再度、君たちに伝える。

これが民宅くんのこだわりのノート。間違った箇所を徹底チェック。そして次には間違えないようにちゃんと記録する。その繰り返し。民宅君はこう述べていた。

盈進には、クラブ活動に全力で取り組みながら、いつでも勉強に集中できる環境があった。読書の時間で、もっと本が好きになり、国語力が自然に身についたと思う。

学校では夜8時まで学習に励み、SF講座では、徹底的に苦手克服に努めた。通学時間も暗記科目に取り組んだ。6年間塾に通わず、とにかく毎日学校で勉強し続けた。

日々の生活で一番大きな心の支えになったのは仲間たちだ。高い目標に向かって努力する仲間の存在。自分は一人じゃない。仲間がいたから、ずっとふんばることができた。

みんな、森井君や民宅君たち、先輩につづくんだ。6年生はもちろん、この夏が勝負。学校はできるだけ開放する。学校に来て仲間と学習に向かうんだ。夏の努力は必ず、秋以降に実るから。

森井君や民宅君は、毎日の英語の学習を欠かさなかった。受験を突破する基礎学力の中心軸は「英語力」である。目標校合格をかなえた先輩はみんな毎日、英語学習をやった。明日から、AUSTRALIA語学研修が始まる。参加する諸君!大いに楽しみ、英語文化に浸り、語学力を身につけてほしい。

民宅くんはよく本を読んだ。大学受験に求められる読解力も読書で身につけた。君たちも民宅くんにつづいて、読書を楽しんでほしい。

 

これから、1学期「ホンモノ講座」、医師の大田浩右先生から教わった脳神経に関するお話を思い出し、「夏休みは、スマホを手放し、本を読もう」をテーマに3冊、本を紹介する。

まずこれ。『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』。「13歳からの」だが、高校生もこの本で納得の学びを得られるだろう。世界平和を地理と政治から学ぶことができるすぐれた一冊だ。

この本が説く地政学の基本の一つは資源エネルギーだ。世界は不平等で、例えば、石油天然ガスの生産国は地球上のほんの一部の国である。その資源輸送の経路の上で大きな紛争が起こるのだ。ロシアからの天然ガスを主力に地球温暖化対策と経済成長を進めたドイツが、ウクライナ危機により大きな混乱に陥ったのは記憶に新しい。

みんな、次の問いに答えられるだろうか。

・海を支配する最強の国はどこか。

・なぜアフリカ産のチョコレートを見かねないのか。

・日本が核爆弾を持つ日は来るのか。

地球儀を見ながら、「カイゾク」と呼ばれる老人が、中高生の兄妹に対して物語的に説明していく手法は秀逸だ。習近平率いる中国の動向も、この本の地政学的分析で頷いた。

現代の世界の国々は、国家の独立を維持しつつ地球温暖化対策と経済成長に腐心するが、この本から、国際的な視野や国家の独立、平和に関心を持つきっかけが得られることは間違いない。

次にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』。環境問題に先駆けて警鐘を鳴らした世界的名著である。

『沈黙の春』はこんな物語から始まる。〈リンゴの木は、溢れるばかり花をつけたが、耳をすましてもミツバチの羽音もせず、静まりかえっている〉。時は1960年代前後。化学産業が勃興し、農薬や殺虫剤が大量に散布されはじめた時。日本でも水俣病などの公害事件と重なる時期である。

彼女は丹念にデータを集め分析し、殺虫剤DDTや有機リン剤の乱用が、時間と空間を経て、生態系バランスにどのような影響をもたらすか考察を進めた。殺虫剤は害虫だけを殺すわけではない。あらゆる虫を殺す。虫が死ねば花粉の媒介者が消える。虫を餌としていた魚や鳥が飢える。ある生物の変動は別の生物に連鎖的に影響する。一方、薬物は食物連鎖を通して濃縮される。魚が消え、鳥も歌わなくなる。そうして「春は沈黙する」ことになる。

生態系を乱す人間の行為は、時間的、空間的な壁を超えて大きなリベンジとなって人間をも脅かすことになると彼女は説いた。だが、そんな彼女に、化学メーカーや圧力団体などが一斉に反撃を開始した。「非科学的な誇張だ。女のヒステリックな言説だ」と、口汚く彼女を罵った。

しかし、いつも整合性を保ち、正確で科学的な解像度を持っていたカーソンはひるまなかった。そして彼女は、「センス・オブ・ワンダー」という言葉を広く世に知らしめた。直訳すれば、「驚く感性」。「The Sense of Wander」それは、彼女の自然に対する畏敬の念だった。

その後、カーソンの主張は広く世界に共有される。現在の気候変動問題への憂慮、SDGsへの潮流はすべてこの本から始まったといっても過言ではない。名著は読むべきである。

最後に『ボクの音楽 武者修行』。壮行式でも少し紹介した。ことし亡くなった世界的指揮者の

小澤征爾さんの本。私は学生時代に読んだ。抜群に面白かった。そして、世界が見たくなった。

20代の小澤さんの大胆不敵な青春の物語である。フランス行きの貨物船に乗り込んだはいいが、通う音楽学校や指揮するオーケストラが決まっているわけではない。あるのは、知人がくれたスクーターだけ。英語もフランス語も不得意だが、船の中で必死に勉強してなんとかする。コンクールの手続きの不備が見つかると、アメリカ大使館の知人にかろうじて話を通してもらう。そうやって滑り込みで参加したコンクールで優勝してしまう。そう、小澤さんは、いつも笑顔で、道端で出会った人とまで、片っ端から友達になって、できないことを、「なんとかする」のだ。

会いたい人に、国境も大海も越えて会いに行く。そこにあるのは音楽への強い意志。どんなにすばらしい才能と技術があっても、意志がなければ開花しない。私はこの本を読んで、人生には強い意志が必要だと感じ、自分にそう言い聞かせてきた。

小澤さんの計画性のない破天荒な行動にハラハラする。が、それが小澤さんの人間的な魅力であり、この本の面白さである。小澤さんは言う。「夢は追うものではなく、しがみつくもの。地位や名声ではなく、己の心にしがみつけ」。「技術の上手下手ではない。その心が人を打つ」と。

It’s not your skill but your heart that moves peoples.

さあ、みんな、図書館に行って本を借りよう。「のBooks」でも、教室にある書棚空でもOKだ。本屋に行って本を手に取り、本を買おう。この夏、スマホを手放し、本を読んで心を耕すんだ。

 

来月には、79回目の8・6ヒロシマ、8・9ナガサキ、8・8福山空襲、そして人々が「もう2度と戦争はしたくない」と思ったであろう8・15がやってくる。

6月下旬にあった「第17期 核廃絶・ヒロシマ中高生による署名キャンペーン」全校集会。

被爆者の切明千枝子さんのことばをもう一度、伝えて終わる。

全身火傷。皮膚がペロンと剥けて、それを引きずりながら、下級生たちが帰って来たの。

1人、また1人。「お母さん、痛いよ。熱いよ」ってうめきながら、泣きながら死んでいったのよ。

(ウクライナやガザの)ニュースやテレビを観ると、悔しくて、悲しくて、涙が止まりません。でも、黙っていると同じことが繰り返される。被爆国である日本が「戦争をやめよう」と世界に、本気で働きかけることが大切だと思うんです。

平和は、力を尽くして、引き寄せ、つかみ取り、みんなで懸命に守らないと逃げてしまいます。あなたたちも諦めないで、必死になって平和を守りましょうよ。

よい夏休みを。

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