学校法人盈進学園 盈進中学高等学校

ホーム最新情報2024年度 2学期「始業のことば(校長)」

最新情報

2024年度 2学期「始業のことば(校長)」

2024年08月22日

2学期 始業式  校長のことば

 

みんな、元気ですか? みんな、どんな夏休みだっただろうか?

甲子園ではすばらしい熱戦が続いている。

この約1ヶ月、仲間の活躍があった。社会にも変化があった。パリ・オリンピックもあった。

中学水泳部3年生2人が競泳の中国大会で、高校水泳部6年生の竹本くんも競泳の中国大会で奮闘した。竹本くんは決勝まで戦った。

中学水泳部の1年生2人は飛び込みで、石川県金沢市で開かれた全国大会に出場し、準優勝を獲得するなど、奮闘した。

フェンシング部は男女とも佐賀県で開かれた全国高校総体(インターハイ)でよく戦った。6年生の大出さんは、昨年度に続き2年連続ベスト16という結果を残した。すばらしい。

中学バドミントン部女子は団体戦で中国大会に出場、高校生女子2人はダブルスで、佐賀県で開かれた全国高校総体(インターハイ)で戦った。1回戦は大分県の1位と対戦して勝利。2回戦は惜しくも敗れたが、全国レベルの壁の厚さを感じつつ、部員全員でその壁を越えるための新たな目標を立て、そのための努力を始めたと思う。

ヒューマンライツ部5年生2人は、広島・長崎の被爆者の苦しみを胸に、スイス・ジュネーブ国連で世界に核廃絶を訴えた。5年生と3年生の2人は、法務省関連の全国規模の人権に関するシンポジウムでパネリストを務め、全国に配信された。みな、本当によく活躍した。心から誇りに思う。

物価高の中、夏休みで給食がなく、生活が苦しい子育て家族に対し、支援団体が「夏休み緊急食糧支援」を行った。辛い夏休みを過ごした子どもたちがいた事実を忘れてはならない。

8月8日、宮崎県で震度6弱の揺れを観測し、津波発生。気象庁は、大規模地震発生の可能性がふだんより高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報」を発表した。備えよう。

7月22日、米国民主党のバイデン大統領が11月の大統領選挙から撤退を表明。後任の党の大統領候補として女性のカマラ・ハリス副大統領を指名した。ハリス氏は59歳。私と同い年。

私はコロナ禍の2020年12月、2学期の終業式で米国初の副大統領ハリス氏誕生に際して、次のように「勝利演説」の一部も加え、紹介した。

カマラ・ハリスさんの母はインド系、父はジャマイカ出身のアフリカ系。彼女はアメリカ史上初の女性で、アジア系かつアフリカ系の副大統領となる。まさに多様性の象徴だ……

「But while I may be the first woman in this office. I will not be the last. Because every little girl watching tonight sees that this is a country of possibilities.」

私は初の女性副大統領になるが、最後の女性副大統領にはならないだろう。なぜなら今夜、ここ(アメリカ合衆国)が、可能性に満ちあふれた国だということを、すべての少女たちが目の当たりにしているからだ。

米国リーダーが誰になるかは、世界のパワーバランスと政治や経済の動向を大きく左右する。私たちの日常もその影響を受ける。だから決して他人ごとではなく、目が離せない。

ただ、私は、ハリス氏が女性だから注目しているわけではない。彼女がこれから、何をするかということ、つまり、政治の中身に注目しているのだ。

8月に入り、株価が乱高下した。日経平均株価の終値は5日、過去最大の下落となった。だが、翌日は一転、史上最大の上昇を記録した。その後も1日の取引時間中に1000円近くも値が動く、ジェットコースターのような展開が続いた。これは、米国の景気に左右されている結果だと専門家が言っていた。

8月6日と9日。広島と長崎は79年目の「原爆の日」を迎えた。湯崎広島県知事のあいさつの一部を引く。冒頭の「ある沖縄の研究者」は、私が2023年1月、3学期始業式で紹介した本『海をあげる』の著者(現、琉球大学教授)の上間陽子さんのことだ。その上間さんの文章が、ことしの「沖縄慰霊の日」を前にした6月18日付、中国新聞「論考」に掲載されていた。タイトルは「誰かの痛み 忘却しない」。私もそれを読んでいて、深く共感していた。

ある沖縄の研究者が、不注意で指の形が変わるほどの水ぶくれの火傷(やけど)を負い、のたうちまわるような痛みに苦しみながら、放射線を浴びた人などの深い痛みを、自分の痛みと重ね合わせて本当に想像できていたか、と述べていました。誰だか分からないほど顔が火ぶくれしたり、目玉や腸が飛び出したままさまよったりした被爆者の痛みを、私たちは本当に自分の指のひどい火傷と重ね合わせることができているでしょうか。人類が核兵器の存在を漫然と黙認したまま、この痛みや苦しみを私たちに伝えようとしてきた被爆者を一人、また一人と失っていくことに、私は耐えられません。「過ちは繰り返しませぬから」という誓いを、私たちはいま一度思い起こすべきではないでしょうか。

来年は被爆から80年の節目を迎える。「平和・ひと・環境を大切にする学び舎」盈進に集う私たちは、生徒も教職員もみな、小さなことでもいいから、仲間と共にそれぞれができることを自分で考え自分で行動する必要があると私は思う。被爆や戦争体験者がいなくなる日は近い。

戦争は絶対にしてはならない。だが、世界で硝煙が絶えない。ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、パレスチナ自治区ガザの人道危機が極まる。スーダンでは内戦と飢餓が続く。7月末、ウクライナの首都キーウの小児病院が攻撃された。また先日10日、ガザ地区の学校がイスラエル軍の空爆を受け、避難していた子どもや女性、お年寄りを含む100人以上が死亡したと報じられた。そのガザについて新聞では、「500人にトイレ一つ」(7月25日『朝日』)「ごみあさる子ら」(8月4日『毎日』)等と報じている。胸が抉られる。いま、国際社会の多くの国がイスラエルの態度を批判している。

広島も長崎も平和宣言において、このような戦争や戦闘の国際情勢を憂い、批判した。そして広島も長崎もロシアとロシアに協力するベラルーシを式典に招待しなかった。

長崎はイスラエルを招待せず、パレスチナを招待した。これに対して米国が反発。日本以外のG7(主要国首脳会議)の英国や仏国等と共に式典を欠席。イスラエルをロシアやベラルーシと同列に扱ったということが欠席の理由だ。

この事態に対し、メディアはどう反応したか。例えば、毎日新聞(8月10日)は社説で次のように主張した。「米国は原爆を投下した当事者だ。英仏はともに核保有国である。平和を願う被爆者の思いを共有するよりも、戦争を巡る自国の政治的立場を優先させたことには、失望を禁じ得ない」。難しい問題だ。だが、難しいからこそ、被爆者の平和への願いや核廃絶への決意を、どうすれば世界と共有できるかを考え、行動し続ける必要がある、と私は思う。

パリ・オリンピック。オリンピックでの活躍を期待されていたが、ウクライナの兵士となって亡くなったアスリートのAIの画像を見て、涙をこらえた。

数々の名場面。個人的にはバレーボールや体操男子団体決勝、柔道の活躍等が印象深い。

日本発祥の柔道は日本以外の国の活躍も目立った。とりわけ開催国フランスの強さが際立つ。どうしてフランスは強いのか。その理由を探ってみた。

フランスの人口は日本の約半分の6800万人。だが柔道の競技人口は約50万人で日本の4倍。「礼に始まり、礼に終わる」という礼節を重んじる価値観が支持され「社会のルールやマナーも学ぶことができる」と、サッカー、テニス等に次ぐ人気のスポーツだという。

柔道の創始者で東京高等師範学校(現筑波大学)にて長年、校長を務めた嘉納治五郎先生は、講道館に掲げた「精力善用、自他共栄」の理念(本校柔道部の部訓)と共に、柔道の海外普及に努め、指導者の派遣も進めた。その結果、長い時間を経て、柔道発祥の国日本の、まさに「お家芸」をしのぐ強さが、フランスにあるということである。

オリンピックを通じ私は、とても悲しいと思うことがあった。勝敗やそれに関する選手の行動等に対するSNS等を通じた誹謗中傷。私は意図的に不正をする者以外、誰ひとりとして非難される人はいないと思っている。誰もが「参加することに意義がある」というオリンピック精神の原点に立ち返る必要があると私は強く思った。競技する人も、審判も、ボランティアも、観客も、運営をスムースにするために車に乗らず自転車に乗ったパリ市民も、バスの運転手さんも、駐車場整理に腐心した人もみな、「参加することに意義があった」と私は思っている。

そうしたすべての人々への感謝を忘れず、パラリンピックも応援したいと思う。パラリンピックの精神は「失ったものを数えるな。残された機能を最大限に生かせ」である。これも障がいの有無にかかわらず、私たちすべての人の生活と人生に通ずる哲学であると私は思う。

柔道女子では、東京大会には出場できなかった角田夏美選手が減量し、努力に努力を重ね48キロ級に階級を変えての優勝。あきらめず、「どうすれば自分は、世界の頂点に立てるか」を自分で考え、発想を変えて、努力し続けたそのプロセスに私は感動した。

体操男子、20歳の岡慎之助選手の活躍に「言葉の力」があった、という記事を読んだ。練習の仕方やミスの理由を言葉にできなかった。そして伸び悩んだ岡選手。18歳の春、重傷を負い、練習ができない時間を使って本を読み、感想を書くことを指導者に勧められた。自分の考えをまとめ、他者に伝えられるようになってほしいという願いがあった。1週間に1冊のペース。先人の知恵や多様な考え方を吸収していった。感想はA4一枚に綴った。

練習に復帰すると、演技の失敗の要因を説明できるようになった。試合中に演技の難易度を下げるように提案を受けても、自分の意志で「必要ない」と思えば断ることができるようになった。メダリストを集めた記者会見では、「僕から答えてもいいですか」と応じたという。

読む。書く。他の考え方を吸収する。自分の頭で考える。考えをまとめる。そして表現する。

この繰り返しがパフォーマンスの向上につながることの証明だ。それは、スポーツに限ったことでない。日常生活の人間関係や学習の成果にも、すべてに通じ、有効であると私は思う。

これから「自分の頭で考える」をテーマに一冊の本を紹介する。鴻上尚史さんの『君はどう生きるか』。有名な開成中学校のこの夏の課題本だった。

著者の鴻上さんは、最近アニメにもなった吉野源三郎の名著、約90年前に書かれた『君たちはどう生きるか』を意識し「君たちは」ではなく「君は」とした。なぜか。現代は多様性の時代であり、「一人一人が本当に違う」からだと鴻上さん言う。

鴻上さんは、「みんな違って、みんないい」という多様性社会の前提に立って、「クラスみんな仲良く」なんかできないと断言し、こう述べる。「好きじゃない人とは、仲良くしなくていい。だってできないんだからね。でもね、『仲良くしなくていい』ことと、『無視していい』ことは別なんだ。……どんなに嫌いでも、相手を尊重し、相手の意見を聞く。そして、協力していい結果を出すことが大切なんだ。そう『協働』だね。」と。鴻上さんは続けて「協働」のために、相手を論破するのではなく、対話することが大切で、そんな人こそかっこいいと述べる。

ページをめくると、「もめることは悪いことじゃない」とか「何のために大学へ行くのか」とか「校則を疑う」とか「英語を勉強する」等、きっと君が「読みたい」と思う見出しに出合う。

この本の大きな章立ては次のとおり。コミュニケーションについて。「考えること」について。スマホについて。自信を持つためには。友だちについて。ルッキズムについて。いじめについて。大人について。何のために生きるか。

その中の「『考えること』について」を参照しながら、「自分の頭で考える」という話をする。「Google」や「Facebook」など若くて世界的に勢いがある大きな会社を「ユニコーン企業」と呼ぶ。2023年、それが世界には1200社があった。そのうち、米国700社、中国200社、インド70社、英国50社。日本はなんと6社しかなかった。その理由の一つとして鴻上さんは、日本の学校では「自分の頭で考える」という訓練をしてこなかったからだと指摘する。そして、多様性社会のいま、「いろんな人がいて、いろんなニーズが生まれていて、いろんな解決方法を考えないといけない時代」だから、自分の頭で考えて、話し合ってみて、また話し合ってみての繰り返し、といった対話と試行錯誤が不可欠なのだと述べる。

読みながら、「そういえば……」と思い、ある新聞記事を思い出した。人工的に流れ星をつくる世界初の事業に挑んでいる宇宙ベンチャーの会社社長の岡島礼奈さんの記事だ。人工の流れ星は天文学を学んでいた友人と、しし座流星群を見ていたときに「そもそも流れ星って、小さなちりなんだから作れるんじゃないの」とおしゃべりしていたことからその発想が生まれたと岡島さんは述べていた。

岡島さんは鳥取県出身で東京大学理学部大学院を修了した理学博士だ。岡島さんは東大生を集めたクイズ番組を例に、「能力のある学生が答えのある問題だけを解くことを競う構図は好きになれない」と言い、「本来、世の中の物事は多面的で、グレーであることが多い。白でも、黒でもない、という答えも導き出せる」学習の必要性を語る。そして、「優秀な人材」の要素をこう説明する。「正解のない問いに対する創造力と想像力と問いを立てる力」だと。

なるほど……つまり、「自分の頭で考える」ことの大切さを、岡島さんは言っているのだと私は思う。もちろん、答えのある問いに対して、すぐに答えられる知識や教養は不可欠だ。鴻上さんも『君はどう生きるか』で、地球温暖化、経済格差、食糧不足、戦争紛争解決、核軍縮など、すぐには答えの出ない難しい問題を解決するためにも、自分の頭で考える材料として知識や教養の大切さを説いている。

私も同感だ。だから、日々の教科の授業、探究の授業、「問え、悩め」の時間、班長会議、委員会活動、学級討議、クラブ活動、クラブでの話し合い等々、盈進での学びはどれも、大切な学習であり、そのときどきに、先生たちに依存するのではなく、他者に任せるのではなく、自分の頭で考えることが大切なのだと私は思う。

中略

8月14日、岸田首相が退陣を表明。経済政策、格差社会の是正、防衛政策、エネルギー政策、少子化対策、「政治とカネ」の問題、党と旧統一教会との関係、核廃絶への取り組み、緊迫した国際情勢への対応等々、国内外の問題は山積だ。すべては私たちの日々の暮らしの問題である。

最後にもう一度、オリンピック。北口榛花選手がやり投げで優勝。ラメ入りピンクのアイシャドーがすてきだった。天真爛漫の笑顔は実にキュートだが、その努力を知ってファンになった。小学校の時はバドミントンで全国大会に出場。水泳もしながら高校生で陸上と出合い、やり投げでインターハイ優勝。有言実行の意志の強さが成長を裏付けた。だが、大学では指導者に恵まれず、成績は低迷。だから勇気を出してひとり、やり投げの強豪国チェコに渡った。

チェコ語という言葉の壁にぶち当たった。しかし、コーチとその家族に溶け込み、無理をしてでもチェコ語で会話し続けたという。その姿にチャコの人々がレストランなど、どの場面でも優しく応じてくれ、チャコ語が上達した。意志を貫く彼女をまわりがみな、応援した。

言葉を獲得した分、コミュニケーションの質が上がった。同時に記録も伸び、今回の結果につながった。勇気を振り絞れば、道は必ず開けるということを北口選手が証明してくれている。そして、語学力や言葉の力が、目標をかなえるための必須のツールだということを、北口選手や先ほど紹介した体操の岡選手が証明してくれていると私は思う。

だから諸君、自分の頭で考えるんだ。本を読むんだ。語学力を鍛えるんだ。文章を書いて自分の考えをまとめるんだ。勇気を出して、自分の心と言葉を鍛えるんだ。担任にも、教科の先生にも、クラブ顧問にも、自分の考えや意志を、自分の言葉で伝えるんだ。

「Eスマイル宣言」にもあるじゃないか。他者を貶めない限り、また利己主義でない限り、どんな考えであろうが、盈進では、アドバイスはあっても、否定はないよ。

盈進は誰の学校?誰が主人公?誰が新しい歴史をつくるの?先生たちじゃないよ。私なんかじゃ決してない。それは君だ。

君のクラブは誰のもの?先生のクラブじゃないよ。顧問のクラブじゃない。君と仲間たちのクラブだ。

だからこの2学期、君は、仲間と共に、自分の頭で考え、明確な目標を立て、その目標に向かって毎日、盈進の主人公という自覚と責任を持って努力するんだ。教室(授業)も、クラブも、体育館も、グラウンドも、盈進の空間のすべては、君と仲間たちのものなんだ。

    最新情報

    TOP