2025年04月07日
「仲間と共に!自分で考え、自分で行動する。Be a challenger、Be a pioneer」
前略
さわやかな春の訪れ。盈進坂300本の満開の桜が、みなさんを歓迎しています。新入生のみなさん、入学おめでとう。保護者のみなさま、お子さまのご入学、誠におめでとうございます。数ある中から、わが私学盈進を選ばれたことに対し、心から感謝申し上げます。
盈進は、創立者藤井曹太郎先生によって1904年(明治37年)に創立され、今年で121年目を迎える、全国でも屈指の伝統の私学である。この間、わが盈進は、幾多の戦争と、激動の時代を乗り越え、いま、ここにある。
政治、経済の世界をはじめ、法律、スポーツ、芸術の世界など、あらゆる分野で活躍する卒業生約3万人が母校盈進と諸君を見守っている。福山周辺の企業の約70%が盈進の卒業生、あるいは関係者が会長や取締役など最重要ポストに就いておられる。まさに、地元の経済界を支え、発展させてきたのは、わが盈進の同窓生であると言っても過言ではない。
この121年の間、校舎も、東町の製糸工場跡からはじまり、三吉町校舎を経て、1972年(昭和47年)にこの千田町へ移転した。以来、今日まで千田キャンパスは50年以上が経過したが、7年前、高校校舎を新築、中学校校舎を改築し、ICT環境や読書環境、グラウンド等も整えた。そうして、諸君は、極めて機能性の高い校舎で学習やクラブ活動ができることとなった。
諸君は是非とも、この歴史と伝統を深く自覚し、盈進生として常に、他者への感謝を忘れず、とりわけ、社会的に弱い立場にある人たちの痛みを感じ、「共に生きる」気持ちを持ち、謙虚さを大切にし、そして誇り高く生活してほしい。盈進の教職員はみな、心を合わせて、諸君を心から愛する。愛することは支え合うこと。「共に学び、共に生きる」ことである。
諸君、学校生活で最も大切なものは何か。それは「仲間」だ、と私は信じる。かけがえのない仲間がいれば、喜びも痛みも分かち合える。だったら、学習も、クラブも、行事も楽しい。
だから、いま出会った仲間と心から信頼できる関係をつくってほしい。盈進には、「eスマイル宣言」という生徒自らがつくった、ひとりひとりが尊重され、仲間を大切にするためのルールがある。それに従って日々、生活しよう。
盈進の建学の精神は「実学の体得」。すなわち「社会に貢献する人材となる」である。それに基づき盈進は共育の基底に「平和・ひと・環境を大切にする学び舎」をすえている。
諸君は、「社会に貢献する人となる」ために、また、「平和・ひと・環境を大切にする」人になるために、自分はどう生きるか……どのクラブ活動で心身を鍛え、どんな学問を究め、どんな職業に就き、どのように社会に貢献するかを、仲間と語り合いながら、自分に問うて悩み、自分自身でその答えを出すように日々、努力してほしい。その「問うて悩む」プロセスと時間がきっと自分を鍛える。そして夢を大きくし、目標を高くしてくれると私は考える。進路目標は、本日配布した『輝く先輩』の冊子を大いに参考にしてほしい。
盈進は、「基礎学力の向上」はもちろんのこと、共育の大きな柱に「クラブ活動」を位置づけている。クラブ活動は、キャプテンや部長、最上級生を中心とした生徒主体の自主的、自発的な活動である。中高一貫のよき先輩・後輩の関係性の中で、全人格の形成に資する責任感、忍耐力、協調性、共感力、思考力、組織力等々、社会に貢献するための大切な人間力を育む。
ここ数年、剣道部、フェンシング部、バドミントン部、弓道部、硬式野球部は全国大会へ出場した。それ以外のクラブも中国大会や広島県の上位レベルで活躍した。
文化部も全国レベルの評価を受け、複数の生徒が内閣総理大臣賞や法務大臣賞を受賞した。北校舎にはためく懸垂幕がそれを物語る。諸君も是非クラブ活動で心と体を鍛えてほしい。
クラブ活動の最大の目的は、人間性を鍛えること、仲間と友情を育み、部員相互の信頼や絆を結ぶこと。それを育むプロセスの充実が、高い成果に結びつくということを忘れてはならない。
いま、ミャンマー大地震の犠牲者を心配しているのは私だけではあるまい。そしていま、世界は大きな転換点にあると感じているのも、私だけではあるまい。
ウウクライナやガザはもとより、アフリカでもアジアでも、世界中で紛争や抑圧、弾圧が続いている。また、世界基準としての自由貿易体制にも亀裂が入り、自由、平等、人権、民主主義、法の支配といった普遍的価値さえ揺らいでいる昨今である。あまつさえ、気候変動問題や核の脅威は人類生存の危機であると日々の暮らしの中で意識せざるを得なくなった。
戦争や紛争の地にいる人々のいのちと尊厳は冒され続けている。ふるさとを追われた難民のキャンプでは、食べものを求める叫び声が飛び交っている。国内でも人口減少による労働力不足や格差社会に物価高騰が追い打ちをかけ、明日への希望を失っている人がたくさんいる。
諸君はその現実に直面し、未来を生きていかねばならないのである。
私たちは、国境を越えたGlobalな時代に生きている。だから、世界の人々と「共に生きる」ために、大学はもちろん社会では語学力が求められる。だから盈進は、全校あげて取り組む毎日のListening Timeなど、生徒自ら主体的に語学を学ぶ環境を整えている。英検上位級の取得も視野に、毎日、語学の学習に取り組んで欲しい。語学力は必ず、未来を切り拓く大きな力となる。
『輝く先輩』にある、韓国の最難関(日本の慶應義塾大学と並べられる)延世大学に合格した、多文化部所属の開地歩心(あこ)さん。彼女は諸君に次のようなメッセージを送っている。
毎日続けた習慣が2つある。1つは、朝5 時に起床して、学校が始まる前の3 時間勉強する。夜は早く寝て十分に睡眠を取るという習慣。2つ目は、学校の休憩時間に単語を覚える習慣。早くから志望校を韓国の延世大学と決め、アプリを含めて自分に合った勉強法を見つけることに努めました。延世大学に集まる世界各国からの学生と交わり、英語と韓国語に加え、中国語も勉強します。後輩のみなさん、目標に向かって、やればやるほど上手くいかず、しんどいこともあります。でも、努力に無駄なことは一つもないんです。
いま、何もかもがデジタルとなった。AIで社会も大きく変わる。宇宙開発も日常の話題となった。自分の隣に多国籍の人がいるのもあたりまえとなってきた。そうして、私たちの生活は急激に変化し、また、コロナのような病はもちろん、地球環境破壊や核兵器の脅しなど、予測がつかない混沌とした未来がいくつも横たわっている。
だから本を読む。読書は「自分で考え、自分で行動する」ための「多様な価値観」を学ぶためにある。読書は、人生のすべてが単純ではないと教えてくれる。そして、その学びの向こうに「仲間と共にどう生きるか」という知恵と哲学を授けてくれる。
読書は常に自分との、あるいは「誰か」や「何か」との対話である。本からことばを受け取り、感情が豊かに耕され、そこから、それまで知らなかった世界へと視野が広がっていく。そして自ずと自分が使うことばに責任を持つことを覚える。
いま、大学は、激変する答えのない時代を生きるための力、すべての学習の土台としての「読解力(読み解く力)」と「論理的思考力(根拠を持って深く考える力)」を求めている。私は、ものごとを“複眼的に考える力”が真の読解力や論理的思考力だと考えているが、それらの力を身につけるためには、日頃からの読書体験が不可欠なのである。
諸君はひとりひとりすべて、等しくかけがえのない存在だ。可能性も無限であり、盈進の、この地域の、日本の、世界の希望である。その諸君が、自らの力で、父や母にもらった尊いいのちを輝かせ、能力を存分に発揮するために、盈進という伝統の学び舎で、自分にしかない個性を磨き、能力を存分に発揮して欲しい。
最近、アメリカのリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の第一人者ゲイブ・ブラウンという人の『土地を育てる』という本を読んだ。実に面白かった。サブタイトルは「自然をよみがえらせる土壌革命」。ゲイブ・ブラウンはこう説く。
地中の生態系のはたらきをよく知ることが大事だ。そのはたらきが活発化すれば、あらゆる土が真に「生きた土」に変わる。植物がよく育つ根源は土(土壌)にある。そうして土地が回復すれば、それが農業の衰退、食料危機、環境破壊、気候変動問題などの対策にもつながるのだと。
私は読みながら確信した。私たち教職員は諸君が自らぐんと成長する「土壌」になろうと。諸君のことをよく知り、諸君のひとりひとりの、すばらしい能力と役割が存分に発揮されるように、私たち教職員が、そのための「生きた土」となろうと。「生きた土」になるように、諸君を愛し、諸君が自分たちの力で力強く目標を突破するために全力を尽くそうと。
地域に冠たる伝統校、わが盈進の合言葉は121年間、ずっと変わらず「仲間と共に」。
それは、「共に生きる」と同じ意味である。仲間との絆を大切にしてきたからこそ、121年の歴史が紡がれ、わが盈進はここにある。諸君には、新しい盈進の歴史と伝統を築くことを大いに期待する。その主人公は諸君以外に、ない。
中略
激変するこの時代に、希望の光を灯すために、努力を惜しまない誇り高い盈進生として、常に問い、悩みながら自分を鍛えてほしい。私たち盈進の教職員の使命は、未来からの留学生である諸君を、責任を持って、未来へ送り返すことである。「仲間と共に! Be a challenger!」挑戦者たれ、「Be a pioneer!」開拓者たれ。盈進はそんな諸君を日々、全力で応援する。
2025年4月5日 盈進中学高等学校 校長 延 和聰